見逃しがメイン、同時配信はオマケ?「データが語る放送のはなし」㉚

木村 幹夫
見逃しがメイン、同時配信はオマケ?「データが語る放送のはなし」㉚

引き続き、民放連研究所がここ数年、毎年春先に実施している放送のネット配信へのニーズに関する調査結果をご紹介します。今回は、地上波民放テレビが行う同時配信サービスに関する部分です。

同時配信へのニーズはいまだ高まらず......

以前にも何度かご紹介しましたが、この調査では、地上波民放テレビが行うインターネット上での同時配信サービスについて、「地上波民放のほとんどのチャンネルの大部分の番組が、インターネット上で通常の放送と同時に常時配信されるとともに、一定期間の見逃し配信なども含めて全て無料で利用できるサービスが、ネットにつながったテレビ、PC・スマホ・タブレットなどで利用できるようになった場合、利用したいと思いますか?」という仮想的な設問を設けています。

図表1に2021年から2023年まで3年分の結果をお示ししました。「利用してみたい」との回答は6割弱ですが、(かなり微妙ですが)少しずつ減っているように見えます。しかし、この程度の変化ではハッキリしたことは言えないですね。少なくとも増えてはいないとだけは言えます。

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<図表1. 地上波民放テレビ同時配信の利用意向 ①>

10代は他の年代よりも同時配信に興味あり?

図表2は、同じ設問の2023年調査を性・年齢別に集計したものです。男女ともに利用してみたいとの回答が10代で多くなっています。逆に男性の30代でやや低いですが、それ以外の年代では、男女ともにこれといった傾向が見えません。前回ご紹介したように、10代男女は見逃し配信の利用経験が他の年代よりも比較的高く、逆に男性30代では利用経験が比較的低くなっていました。ですからこれらの性年齢については、この結果に意外感はありません。しかし、50代60代を含めて、それ以外の性年齢でほとんど違いがないのは、やや意外でした。見逃し配信の利用経験は、男女とも60代になると明らかに低くなっていましたが、同時配信への利用意向では男女とも50代以下と同程度です。見逃し配信は実際の利用経験で、こちらは"意向"という大きな違いはありますが、同時配信の中身は放送と同じですから、60代の人にもとっつきやすく感じられるかもしれませんね。

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<図表2. 地上波民放テレビ同時配信の利用意向②(性年齢別集計、2023年調査)>

自宅のテレビがない部屋やリビングのメインのテレビで視聴したい

図表3は「地上波民放の同時配信/見逃しサービスをどのように利用したいですか」との設問の結果(2023年調査)です。視聴したい場所やデバイス、同意配信と見逃し別の利用意向などに関する選択肢について、それぞれ、"そう思う"から"そう思わない"まで5段階のカテゴリーで聞いています。図表4は、トップ2カテゴリー("そう思う""ややそう思う")の合計値を、選択肢別に2021、2022、2023の3時点分示したものです。

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<図表3. 同時配信利用形態の意向(利用意向表明者)①>

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<図表4. 同時配信利用形態の意向②トップ2カテゴリー選択率の推移>

以下、"そう思う"と"ややそう思う"の肯定的な回答の選択率を中心に見ていきましょう。図表3を見ると、利用する場所では、"自宅のテレビがない部屋で"が最も多く、続いて"自宅のメインのテレビ"です。同時配信というと誰もが真っ先に思い浮かべるであろう"外出先や移動中にスマホ/タブレット/PCで"は、自宅内よりは少ない水準です。これは過去2回の調査結果でも全く同じ順番で、水準までほとんど同じでした。同じネット同時配信と見逃し聴取の組み合わせであるradikoの場合、最もよく聞かれている場所は自宅内ですが、テレビでも同様の傾向になることは容易に想像されます。

次に、リアルタイムか見逃しかについては、両方の組み合わせ>見逃し>リアルタイムであることがわかります。これも3時点で全く同じ傾向です。両方の組み合わせの利用意向が最も高いのは、ある意味当然ではありますが、リアルタイムと見逃しを比べれば、見逃しの利用意向の方が明らかに高いと言えます。仮にこの設問で想定したようなサービスが実現した場合、見逃し配信は同時配信のオマケではなく、同時配信が見逃し配信のオマケになるのかもしれませんね。

ネット配信の主戦場はオンデマンド

ここまでご紹介した調査結果をまとめると......
・地上波民放テレビ同時配信サービスへのニーズは6割弱あると考えられるが、年々わずかに細っている可能性がある。
・性年齢別の利用意向に大きな差異はないが、10代は他の年代よりも高いと言える。
・同時配信を利用したい場所は自宅内が多い。(テレビがない)自分の部屋が最も多く、リビングのメインのテレビ(大画面テレビ)がこれに続く傾向は3時点で不変。
・リアルタイム視聴(同時配信)よりも見逃し視聴へのニーズの方が明らかに高い傾向も3時点で不変。
といった感じになります。

以前、この連載が始まる前の寄稿でもご紹介しましたように、地上波テレビのインターネット上での同時配信がかなり以前から実際に利用できた3カ国(米、英、独)で行った同様の調査でも、ここでご紹介した結果とほぼ同じ傾向が出ていました。テレビ放送の同時配信は、自宅でネットにつながったテレビ(コネクテッド・テレビ)で視聴するのが多数派で、同時配信よりもオンデマンドの利用の方がかなり多い、という傾向は世界共通になるのかもしれません。

放送のインターネット上での同時配信には、一定のニーズはありそうですが、見逃し配信やVODのようなオンデマンド配信ほど大きくはないと考えてよさそうです。一方で、権利問題だけでなく技術上の問題からも、同時配信を行う上でのハードルやそのコストはオンデマンド配信よりも大きいことはご存じのとおりです。さらに同時配信は、CMの差し替えが、技術上だけでなくさまざまな問題から難しさを抱えているというマネタイズ上の課題もあります。

前回もご紹介しましたが、現在、テレビ視聴の潮流は、もちろん絶対的な水準はリアルタイムの方が、全体としてはずっと大きいのですが、相対的にリアルタイムからオンデマンドに向いています。その流れは若年層だけに留まらず、40代、50代にも波及してきているようです(さすがに60代以上はまだのようですが)。放送事業者が行うネット配信事業の主戦場は、これからもオンデマンド配信であることは変わらないような気がします。

次回は、恒例の(?)「キー局の同時配信と地元ローカル局の同時配信ならどっちを見たい?」
に関する調査結果をご紹介します。

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