コンテンツ中心の伝統的な米アップフロントが復活 重心はリニアから配信へ

編集広報部

米テレビ業界恒例のアップフロントが今年も5月半ばの週、各社はニューヨーク市内でプレゼンテーションした。9月に始まるレギュラーシーズンの広告枠をこの時期に交渉し、事前に一括セールスするアップフロント。「アド・エージ」誌が伝えた総括によると、今年は久々に「古き良きアップフロント」が戻ったという。各社とも新番組の紹介にフォーカスし、俳優やミュージシャン、アスリートなど多くのセレブリティがゲスト参加して会場を賑わせた。

昨年のアップフロントは苦境下での開催となった。ハリウッドの脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)が同時にストライキを敢行したため新番組制作の見通しも立たないうえに、セレブリティも不在。プレゼンテーションの内容は新技術の紹介に偏らざるを得なかった。それ以前は新型コロナによるパンデミックでリモート開催を余儀なくされ、アップフロントにとって苦しい数年が続いていた。

Amazonは初参加、Netflixも初のリアル開催
これまでデジタルメディアのアップフロントといえる「ニューフロンツ」に参加していたAmazonが広告入り配信市場に参入したことを機に、今年ついにアップフロントに殴り込み。Amazon Prime Videoが広告付き市場に見合ったオリジナルコンテンツをどの程度制作できるのか――広告会社にはやや不安もあったようだが、結果的にAmazonはドラマやゲームショーなどの新番組を続々と紹介し、NFLの『Thursday Night Football』や女子バスケットボールリーグWNBAの試合の配信権も引っ提げ、広告会社の懸念を見事に吹き飛ばしたという。

一方、リアル開催には初参加となったNetflixは得意のエンタメコンテンツではなく、スポーツに重点を置いてプレゼンテーション。2025年から始まるプロレス『WWE Raw』のライブ配信に加え、24〜26年の3年間、クリスマスのNFL中継権を獲得したことを発表した。Netflixが本格的にスポーツ配信市場に参加するとあって業界に衝撃が走った。

▷中心はやはりスポーツ
アップフロントに占めるスポーツコンテンツの比重はリニア、配信ともに年々高くなっている。今年も、25年2月の第59回NFLスーパーボウルを中継するFOXだけでなく、26、27年の放送権を持つNBCUとディズニー(ESPN)もかなりの時間を数年後のスーパーボウル広告販売に充てた。ディズニーは特にスポーツにフォーカスし、スターアスリートやESPNのアナリストらが舞台に登場。NFL、NBA、そして今最も注目されている大学リーグや女子スポーツをめぐってトークを展開した。

特にホットな話題となったのが女子バスケットボール。大学バスケトーナメント「マーチ・マッドネス」で今年大旋風を巻き起こしたケイトリン・クラーク選手のWNBA(Women's National Basketball Association)入りで、これまでテレビ中継で軽視されてきた女子の試合にメディア、視聴者、広告主からの注目度が急上昇。目下、メディア間で試合中継権の奪い合いになっているほどだ。

▷配信も重要な一角に
配信事業は昨年に続きアップフロントの重要な一角を占める。ネット広告の業界団体Interactive Advertising Bureau (IAB)によると24年は広告支出の比率がデジタル(52%)、リニア(48%)と初めて両者が逆転すると予測している。

ディズニー、NBCU、FOX、ワーナーブラザーズ・ディスカバリー(WBD)は、それぞれ自社のリニア資産を紹介したが、それ以上に広告事業の中心として配信サービスをアピールした。NBCUとWBDは特に自社の映画スタジオを前面に出して新たなブロックバスター映画をPR。劇場公開から配信開始までの期間短縮に伴い、配信用の独占的広告枠をパッケージ販売する方向を示した。例えばWBDは映画『Dune』『ハリー・ポッター』など人気シリーズのMAXでの配信広告枠に広告主を誘導した。

YouTubeだけは唯一、インフルエンサーらによるクリエイターエコノミーにフォーカスした。インフルエンサーにハリウッド俳優並みのパワーを持たせるのがYouTubeの長年の目標で、コンテンツの視聴方法がスマホなどの小型デバイスから家庭のテレビ大画面に急激に移行していることもあり、「YouTubeは今、テレビのあり方を再定義している」と、Google AIを活用した広告キャンペーンやノンスキッパブル広告の導入とその技術を中心にプレゼンテーションした。

▷合言葉は「ONE」
今年のアップフロントのキャッチフレーズともいうべきが「ONE」。「One WBD」「One Fox」、NBCUの「One Platform」、Amazonの「One Buy, One Campaign...」など各社とも自社のクロスプラットフォーム資産を通した総合的な広告効果をアピールした。

ただ、クロスプラットフォームの広告効果を実証するには測定指標などを掘り下げる必要がある。コンテンツ紹介が十分できなかった昨年はホットなトピックとして取り上げられたものの、今年のアップフロントではほとんど語られなかった。ディズニーに至っては近年アップフロントとは別に「Tech & Data Showcase」としてデータ関連の技術発表の場を設けている。今年は1月のCESでQRコードやAIを駆使したショッパブル広告や番組のシーンと連動させた広告のペアリング用AIツールなどを紹介している。

M&A騒動の真っただ中にあるパラマウント・グローバル社は今回、アップフロントに参加しなかった。1月早々に参加取りやめを発表しており、アップフロントとしてではなく広告会社や広告主に向けて個別のプレゼンテーションの機会を設けるとしていた。

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