世界的に低迷しつづけるニュースへの信頼度・関心 さらに進む非報道系のネット依存とマス・メディア離れ 日本は平均値、ないしそれ以下で安定

水野 剛也
世界的に低迷しつづけるニュースへの信頼度・関心 さらに進む非報道系のネット依存とマス・メディア離れ 日本は平均値、ないしそれ以下で安定

本稿は、2022年7月に公開した「世界的に低下するニュースへの信頼度・関心、進むマス・メディア離れ 比較的軽度だが、日本でも似た傾向 報道避ける割合も微増」の続編である。前稿は相対的に注目を集めつづけ、浮き沈みはありながら、2024年に入ってからも本サイトのアクセスランキング上位に顔を出した。

SNS全盛の昨今、若者を中心にニュース離れ、マス・メディア離れが止まらない。「不都合」なこの現実をはっきりと突きつける結果だっただけに、放送界を含めた主要メディアはもちろん、それ以外の多くの人々にも「やはりそうか」と実感をもって受け止められたのかもしれない。

では、その後、ウクライナやガザなどで軍事的な応酬が止まず、世界人口の約半数が大型の選挙を経験する2024年はどうなのか、最新の調査結果を報告する。

ますます進む「ニュース離れ」

最新版の『デジタル・ニュース・レポート』NHKによる部分的な日本語訳)は、イギリスのロイター・ジャーナリズム研究所の委託で、2024年1〜2月にかけ、日本を含む47の国・地域の約9万5千人(日本は2,019人)にオンライン上で実施したアンケートをまとめたものだ。初回の調査は2012年に公表され、これが13回目である。

レポートは全体で約170ページにも及ぶが、本稿ではニュースの主要な入手先、報道におけるAI(人工知能)の利用、信頼度、「ニュース離れ」などを中心に主要な知見を概説しながら適宜、日本での結果も紹介し、最後に若干の考察を示す。

大まかに結論を先んじれば、世界の主要な既存メディアはさらなる苦境に立たされており、主たる問題の多くは巨大テック企業に起因している。報道専門のサイトから直接ニュースを得るのはいまや少数派(22%)で、主な入口は動画サービスを含むSNS(29%)、検索エンジン・情報収集サイト(25%・8%)、特に若者の間ではTikTokなどショート動画アプリの人気が高まっている。全体的に非報道系のネット依存が進む半面、不正確な情報への懸念は高まる一方で、AI主導の報道にも不安感がある。また、重要な大型選挙がかさなる年であるにもかかわらず、ニュースへの信頼度・関心は低調なままで、あえて報道を避ける傾向、つまり「ニュース離れ」もますます強まっている。

全体的に日本でも似た傾向は見られるが軽度にとどまり、ほぼ平均値、ないしそれ以下で安定的に推移している。

進む非報道系、特に動画サイトへの依存
若者に人気のTikTok

レポートが特に注目しているのが、世界的に進む非報道系、なかでも動画サイトへの依存だ。

若者を中心に広まっているのが2〜3分以内のショート動画で、世界の66%が毎週アクセスしている(日本は39%)。長めの動画も51%と人気が高い。また、そうしたニュース動画を視聴する際、報道専門の媒体を利用するのは少数派(22%)で2018年から10ポイント減、大多数(72%)は非報道系のプラットフォームに頼っている。それらの多くは、巨大テック企業が運営するSNS、検索エンジン、動画サービスである。

伸長著しい動画共有アプリの1つがTikTokで、18〜24歳の若者では23%、全体でも13%が毎週、ニュースの情報源としている。アフリカ、中米、アジアの一部では特に利用者が多く、タイ(39%)、ケニア(36%)、インドネシア(29%)、ペルー(27%)が代表例だ。対して、デンマーク(3%)、イギリス(4%)、アメリカ(9%)など、国・地域により差が大きい点も特徴だ。日本(5%)はかなり低い。

こうした非報道系媒体の問題点は、閲覧数により収益をあげようとするあまり(「アテンション・エコノミー」)、娯楽性や目を引く過激な表現を押し出しがちになることだ。実際、TikTokユーザーの27%は信頼できるニュースの見極めが難しいと考えており、これは主要SNSで最多の数値である。報道に特化しているわけではないため、後述するように、真実性が損なわれる危険性をはらみ、急激に発展するAIが問題に拍車をかけることにもなる。

ニュースの真実性、AI主導の報道に高まる不安

報道を主軸としないネットサービスへの依存とは裏腹に、真実性への懸念は高まるばかりで、2023年から3ポイント増の59%がネット情報の真偽について心配している。特に顕著なのが南アフリカ(81%、前年から6ポイント増)とアメリカ(72%、同8ポイント増)である。アメリカでの「誤情報」(misinformation)や「陰謀論」に対する著しく深い不信感は、2023年に大手通信社APとシカゴ大学の全国世論研究センター(NORC=National Opinion Research Center)が共同でおこなった世論調査からも裏づけられる(「深まるばかりのメディア不信 米国の世論調査 過半数が情報拡散や社会分断の責任問う」20231016公開)。

2024年の調査ではじめて問われた報道でのAI利用については、政治や犯罪など「ハード・ニュース」での不安感が相対的に強かった。大半をAIが生成する報道を不安(uncomfortable)とする割合は、高い順に政治(46%)、犯罪(43%)、ローカルニュース(37%)で、公共性の高い分野ほど、ジャーナリスト、つまり訓練された人間やその組織による、豊富な経験・知識にもとづいた総合的な判断能力が期待されている。比較的に数値が低かったのは、スポーツ(27%)、セレブリティ・娯楽(29%)、芸術・文化(29%)である。

容認されるAI利用は「代替」よりも「支援」

他方、インタビューなどの文字起こし、翻訳といった「舞台裏」でのAI利用にはより寛容な態度が見られた。一例としてアメリカでは、人間の監督下でAIが記事の大半を生成することに不安(52%)が支障なし(comfortable、23%)の2倍以上であるのに対し、AIの助けを借りて人間が記事の大半を書く場合は逆に支障なし(42%)が不安(30%)よりも多い。

現時点でAI導入が受け入れられやすいのは、プロの報道人の「代替」よりも、裏方としての「支援」だといえる。

「ニュースへの信頼度」は低調なまま
日本はほぼ平均値で安定

ニュースに対する信頼度(「ほとんどの場合、大抵のニュースは信じられる」と答えた人の割合)は低調なまま、全体平均は40%(2023年と同じ)で、新型コロナウイルスによるパンデミックの最盛期だった2021年から4ポイント減である。とはいえ、全体的には大幅な変化があるわけではないため、「底を打ったか?」とレポートは指摘している。最高はフィンランド(69%)、最低はギリシャ・ハンガリー(23%)、平均より低めは韓国・フランス(31%)、アメリカ(32%)などである。

 日本(43%)は平均をやや上回り、2022年(44%)、2023年(42%)と近年、安定的に推移しているのが特徴だ。ドイツ・ブラジル(43%)と同水準で、他国と比較すれば、特段、信頼されているわけでも、不信を買っているわけでもない、といえる。

信頼度を決定づける主な要因では、全体で上位から透明性・公開性(72%)、高い報道基準(69%)、自分と同じような人々を公正に反映(65%)、バイアスがない(61%)がならぶ。これらは相互に関連し、かつ、国・地域、年齢、政治的な立場などを越え、共通して支持されている。

「ニュースへの関心」も低下傾向
日本はほぼ平均値で安定

世界中で大型の選挙が実施されるにもかかわらず、ニュースへの関心(46%)も全体的には低下傾向にある。2023年からは1ポイント減とほぼ変わらないが、2015年と比べると21ポイントも下落している。特に女性と若者の間で関心が薄れている。大統領選挙があるアメリカ(52%)は昨年からは3ポイント増だが2015年からは15ポイント減、同じく2015年と比べるとスペイン(52%)は33ポイント減、イギリス(38%)も32ポイント減である。

ここでも日本(45%)は近年、ほぼ平均値の40%台で安定的に推移し、2023年(46%)と大きな変化はない。

進む「ニュース離れ」と「ニュース疲れ」
日本は平均以下で安定

振るわぬ信頼度・関心に連動して、ニュースを意図的に避ける「ニュース離れ」(news avoidance)は進んでいる。全体で4割近く(39%)がときに、あるいはしばしば「積極的に報道に触れないようにしている」と答えており、2023年から3ポイント増、2017年からは10ポイント増えている。その要因としてレポートは、繰り返しが多い、退屈、不安感・無力感を覚えさせる否定的な内容、などを指摘している。

「ニュース離れ」と類似した「ニュース疲れ」(news fatigue)も進んでおり、39%が過多な情報量に「疲弊」(worn out)し、女性(43%)が男性(34%)を上回っている。全体では2019年から11ポイント増、顕著な増加(15ポイント以上)が見られるのはブラジル(46%)、スペイン(44%)、ドイツ(41%)、デンマーク(36%)である。

この背景として自由回答が示唆するのは、終わりの見えないウクライナや中東地域での軍事的紛争である。レポートはまた、スマートフォンを通じて、各種アプリのアルゴリズムにより間断なく情報が送られるメディア環境を指摘している。

日本は「ニュース離れ」(11%)と「ニュース疲れ」(21%)とも、平均以下で安定して推移している。

入り混じる安堵と不安
「ゆでガエル」にならぬよう

最後に若干の考察を記すと、2年前は「憂慮すべき民主主義への影響 日本も他人事でない」と注意を促したが、数値を見る限り、ニュースへの信頼度・関心などにおいて日本の状況は少なくとも悪化はしておらず、やや安堵した。

他方、ぼんやりとした不安も感じずにはいられない。急激に変化しないがゆえに、静かに問題が進行し、いつの間にか手遅れになってしまわないだろうか。

日本では、ニュースの入手先として最多はオンライン(58%、SNSの23%含む)で、印刷媒体(21%)はもとより、すでにテレビ(53%)を超えている。若者ほどネットに依存し、テレビがオンラインを上回るのは55歳以上だけだ。

すぐにではないにせよ、高まるばかりの非報道系のネット依存、不正確な情報への不安、翻って既存マス・メディアの報道への不信感、という他国の現況に今後、近づいていくようにも見える。

気候変動や少子化など「不都合」な問題の多くがそうであるように、「ゆでガエル」にならぬよう油断は禁物だ。

最新記事