「伝える」から「変える」へ 日本テレビ放送網が考え続ける人権と多様性【シリーズ「人権」⑬】

森田 康子
「伝える」から「変える」へ 日本テレビ放送網が考え続ける人権と多様性【シリーズ「人権」⑬】

民放onlineはあらためて「人権」を考えるシリーズを展開中です。憲法学、差別表現、ビジネス上の課題、ハラスメントの訴えがあったときの企業としての対応、などを取り上げてきました。13回目は、日本テレビ放送網の森田康子さんに、24時間テレビから社内研修、キャラクターによる啓発、ビジネスと人権方針まで、多様性や尊厳を守る取り組みについてご紹介いただきました。※本文のリンクは全て外部サイトに遷移します。(編集広報部)


24時間テレビが描いてきた"人権のかたち"

日本テレビ放送網の人権への取り組みといえば、まず『24時間テレビ』がイメージされるだろうか。1978年から毎年欠かさず「愛は地球を救う」をメインテーマに、さまざまな人権に関する課題を取り上げてきた。

第1回放送の課題は「寝たきり老人にお風呂を!身障者にリフト付きバスと車椅子を!」だった。以来、「アフリカ飢餓救援(1985年第8回)」「SAVE THE CHILDREN(1987年第10回)」「雲仙・普賢岳災害救援!寝たきりのお年寄りにお風呂カーを!障害者に社会参加を!アジア・アフリカに海外援助を!(1991年第14回)」「絆~今、私たちにできること(2006年第29回)」「ニッポンって...?~この国のかたち~(2013年第36回)」「人と人~ともに新たな時代へ~(2019年第42回)」と、さまざまな課題と向き合ってきており、第48回の今年は「あなたのことを教えて」をテーマに、差別・貧困・格差について伝えた。
■ヒストリー|24時間テレビ|日本テレビ

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<第48回『24時間テレビ』(2025年8月30、31日)>

こうやって振り返ると、漠然と「人権」といっても本当に広く、多種多様な課題があり、『24時間テレビ』は、そのときどきの社会や時代に合わせてトピックを取り上げ、発信してきた歴史がある。

何を、どのように取り上げるべきか、リスクはどんなものがあるのか、傷つく人がいるのではないか、出来上るまでいくつもの段階で頭をひねりながら、自分たちの活動も見直しつつ、毎年夏に人権について考えてもらえる機会のひとつを発信し続けてきた意義は小さくないと感じている。

自社キャラクターをつくって発信  

お天気キャラクター"そらジロー"とその仲間たちも、たくさんのメッセージを伝えてきた。
2021年には虹色の"にじモ"が誕生した。にじモは、その名のとおり「虹」をモチーフにしたキャラクターで、この虹はLGBTQの象徴である6色レインボーも表す。「いろいろな個性を持った人たちがみんな仲良くできるように」との願いから誕生した。ちなみに性別は公表しておらず、そらジローたちも気にしていない。紙芝居『にじモとにじいろの花』も製作され、その読み聞かせなどを通じて、LGBTQについてみんなで考える機会となっている。

そして、2023年には"ゆきポ"も仲間に加わった。ゆきポは「雪」のキャラクターで、アイヌ文様などがポイント。アイヌ民族を差別する表現を放送したことへの反省がきっかけとなり、多様性を尊重し、「さまざまなルーツを持った人たちが仲良くできる社会を目指したい」という願いから誕生した。

それぞれが法務省を訪問するなど人権啓発のために活動している。
■「にじモ」が法務省を訪問 副大臣に"人権啓発"取り組み約束(2022年2月3日掲載)|日テレNEWS NNN
■「世界の先住民の国際デー」人権啓発活動推進へ、日テレお天気キャラクター「ゆきポ」が法務省訪問(2024年8月9日掲載)|日テレNEWS NNN

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<左から、ゆきポ、にじモそらジロー

にじモもゆきポも、社内の有志メンバーで構成された「ジェンダーチーム」から生まれた。
チームでは、東京大学大学院の瀬地山角教授を招いて「炎上事例から読み解くジェンダー論」のセミナーを開いたり、在京テレビ局と合同で「国際女性デーキャンペーン」を開催したりするなど、社内外に向けて発信してきた。また、通常業務であるコンテンツ制作においても、「これってどうなんだろう」「こんなこと言ったらダメなのかな」などお互いの意見を出し合う場となっている。

その後、報道局には正式に「ジェンダー班」が設置され、ニュースや放送における表現を通じて社内外に向けた人権活動を行っている。

「NNN全国ジェンダー会議」は、弊社報道局が主催し、系列局と一緒に、放送におけるジェンダー表現の検討や正しい情報の普及等を目的に昨年から始まった取り組みである。
■「NNN全国ジェンダー会議」が開催されました|サステナビリティ|日本テレビホールディングス株式会社

多様性と未来を伝えるキャンペーンたち

また、「カラフルDAYS」(2025年2月11日~16日)では、多様性を認め合い、誰もが自分らしく生きられるヒントをお届けするキャンペーンを行っている。ゲイであることをオープンにしている白川大介(当社報道局。こちら「民放online」のTBSテレビのご寄稿にも登場)がプロデューサーとなり、期間中はさまざまな番組で、いつもより一層多様性に焦点を当てて情報発信している。
■カラフルDAYS|日本テレビ

「こどもウィーク」(2025年8月2日~15日)では、「JOIN!~いっしょにつくる、ミライ~」として、こどももおとなも一緒に作る未来のためのヒントや取り組みを取材・特集しており、「戦争を起こさないために、いまできること」をこどもたちと一緒に考えた。
■日本テレビ こどもウイーク|日本テレビ    

国際女性デーに合わせ、女性の権利について集中的に発信するキャンペーンも、今年で4回目となった。
■国際女性デーに合わせた報道キャンペーンを実施しました|サステナビリティ|日本テレビホールディングス株式会社

このほか、Tokyo Prideなど、対外的な活動も積極的に参加している。
■「Tokyo Pride 2025」に日本テレビHDが出展しました|サステナビリティ|日本テレビホールディングス株式会社

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<キャンペーンのイメージビジュアル>

社内で広がる人権の学び

これらの活動は、メディアとしてできることを考え、発信し続けてきたものだ。しかし、足元の自分たち、メディア業界自身としてはどうか。近年、より一層それが問い直されてきているように思う。

社内ではこれまで、報道局のジェンダー班や人事、考査、法務など、さまざまな部署が自主的に声を上げて、次のような研修や勉強会を行ってきた。

  • ・「性的シーンから俳優を守るインティマシーコーディネーターとは」
  • ・「こんなときどうする?今時のジェンダー表現」
  • ・「女性の体について正しく知る勉強会」
  • ・「『炎上する表現』についての勉強会」
  • ・毎年恒例の職級別・各種ハラスメント研修
  • ・「アイヌ民族についての研修会」「アイヌ民族と差別 ~アイヌ民族とは~」「アイヌ民族の若者の今」
  • ・「外国人差別問題研修~黒人差別問題を中心に~」
  • ・「在日コリアンをめぐる諸問題」
  • ・「部落差別の現実から学ぶ~差別表現を繰り返さないために~」
  • ・「アンコンシャス・バイアス研修~ジェンダーバイアスにフォーカス~」
  • ・「『ルッキズム』って一体なに?」

研修や勉強会を行うたびに、多くの意見や考えが寄せられ、「人権」をどう考えるべきか、メディアとして「人権」とどう向き合うべきか、新たな発見がある。こうして社内の意識も更新され続ける必要があり、自分たち、その身の回りを見直す大切な機会を作る活動は、全社どの部署も自主的に行っていきたい。

自分たちの「ビジネスと人権」の始点

さらに今後は、自分たちだけでなく、ビジネスに関わる人たち、さらにその周りの人たち、そして視聴者、社会全体と人権の輪を広げていけるよう、誰もが生きやすい社会のためになる活動、ビジネスを考えていかねばならない。そのような観点で、日本テレビグループとしての「ビジネスと人権」の取り組みも進めている。

日本テレビグループでは、2023年11月に人権方針を策定し、公表した。
■日本テレビホールディングス 人権方針

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、2020年以降、国内でも行動計画やガイドラインが策定され、人権に対する企業の責任がこれまで以上に高まってきた。また、旧ジャニーズ事務所による性加害問題が報道され、「マスメディアの沈黙」が被害拡大の一因であったとされ、日本テレビとしても自己検証番組を制作した。

人権方針を作るにあたり、まず、取締役ら経営陣が委員となっているサステナビリティ委員会の1チームとして、社内横断的なメンバーで「人権ワーキングチーム」が作られた。チーム内では、「われわれメディアは人権とどう向き合うべきか」が話し合われ、人権方針にはぜひその視点を掲げようということになった。そのため、人権方針では、「差別・ハラスメントの禁止」「労働者の権利尊重」とともに、「コンテンツ制作者としての姿勢」として、「発信、提供するすべてのコンテンツサービスは、表現の自由を守るとともに、すべての人権を公平に取り扱い、その尊厳を傷つけることのないものとします。また、当社グループのコンテンツを通して、人権が尊重される社会の実現に貢献します」と明記している。

人権方針の内容や、そもそも「ビジネスと人権」とは何かについて社内共通で認識できるよう、外部弁護士と共同して社内研修も行った。

画像3.png<社内で行った「人権研修」>


もちろん、人権方針を策定しただけでは不十分で、具体的な人権への取り組みを実行していく必要がある。これまで契約書が締結されない取引も珍しくなかった業界慣習、その慣習やお付き合いから発生する人権課題も少なくない現実がある。

そこで、まずは契約書のひな型を見直し、取引先(委託先)、その先の再委託先も協同して人権が尊重されるビジネスとなるよう、人権尊重のための条項をひな型に追加し、2024年4月以降運用することとした。社内周知も行い、可能な限り多くの取引について適用し、グループにも提供している。

社会全体の人権に対する意識の高まりを受け、徐々にメディア業界としても、これまでを見直し、根本から本気で人権尊重のためのビジネスにしていこうという気運が高まってきたように感じており、この契約書の人権条項についても多くの取引先の皆さまにご賛同いただいている。

また、救済窓口の整備も進め、社内だけでなく社外の窓口を設け、さらには従業員だけでなく、取引先を含め、日本テレビのビジネスに関わるすべての人が利用できるようにし、周知した。

人権に特化したホームページ(=冒頭写真)も開設し、日本テレビグループの人権への取り組み情報を発信する場としている。
■人権の尊重|日本テレビホールディングス株式会社

今年からは、人権デュー・ディリジェンスの取り組みをさらに進めるべく、サステナビリティ事務局と人権ワーキングチームがけん引して、より具体的な活動を一つ一つ実施している。

まず、自分たちのビジネス上、どこにどんな課題があるか調査・把握する段階として、2025年3月、全社員を対象に人権に関するアンケートを行った。人権方針に掲げた重要課題を中心に、各種ハラスメントや差別の有無、救済窓口の周知度などを聞く内容とし、自由記述欄も設けたところ、社内からは、「こうしたアンケートを全社員、スタッフに行うことは大変意義がある」「寄せられた声に対し、真摯に向き合ってもらいたい」「現場で働くスタッフみんなが良い未来のために努力する健全な環境を希望する」など、前向きな意見や関心が多く語られた。個人の人権への意識の高まりや危機感を実感したとともに、人権への取り組みを確実に進めていかなければならない責任を重く受け止めた。

社内アンケートの結果から、人権方針に掲げていた課題の重要性が再認識されたため、それをよりかみ砕いた以下の「重要課題」も設定した。

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そして、今夏は、日本テレビの取引先の皆さまに向けたアンケートも実施した。

制作会社をはじめとして、日ごろから深く、継続的な取引のある会社170社超に対して回答を依頼。日本テレビとその会社が直接取引しているビジネスだけでなく、その先の再委託先、再々委託先との関係も聞き、日本テレビに関わるビジネス全体で、労働環境やハラスメント、差別などあらゆる人権課題がないか、その懸念も含めて聞くものとした。

さらに、今冬は、取引先に続き、グループ会社に対してもアンケートの実施を予定している。グループ会社単位ではなく、従業員個人からの声を聞くことを検討しており、毎年行っている従業員満足度アンケートに加えて人権に関するアンケートやヒアリングを行う予定である。

これらアンケートの結果から得られた課題や懸念に対して、自分たちは何をすべきか。
パートナー(取引先、グループ会社だけでなく、視聴者、ステークホルダーなど幅広い)と協同し、課題を見つけ、対応し続けていかなければならない。

メディア業界全体が変わろうとしている。自分たちができることを、それぞれが考え続け、継続する。そしてパートナーと協同する。その一歩一歩が新しいメディアを作るのではないか。

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