岐路に立つ米公共放送 政府助成金打ち切りで支援機関CPBは9月末閉鎖

編集広報部
岐路に立つ米公共放送 政府助成金打ち切りで支援機関CPBは9月末閉鎖

米国の公共放送が大きな岐路に立たされている。ドナルド・トランプ米大統領は7月24日に公共放送局への助成金打ち切りを含む法案に署名(既報)。その後、反対派が2026年度予算で助成の復活を試みたが、8月1日の連邦議会・上院歳出委員会がそれを否決したことで再開への道は完全に閉ざされた。このため、全米の公共テレビ局(PBS)と公共ラジオ局(NPR)への支援を制度的に担ってきた公共放送支援機構(CPB)は9月30日に一部の移行チームを残して閉鎖されることになった。

CPBは1967年の設立以来、政府からの助成金を受託・配分する中核機関として全国のPBSやNPRを支えてきた。今回の決定で約60年の活動に終止符を打つ。また、CPBは8月18日、2022年に創設された次世代警報システム(Next Generation Warning System=NGWS)への助成金プログラムの終了も発表。農村部や災害多発地域を優先し3年間で総額1億3,600万㌦(約201億1,400万円)を配分する計画で、175局から1億1,000万㌦超の申請が寄せられていたが、継続の道を断たれた。CPBのパトリシア・ハリソンCEOは「地域局のあらゆる緊急時警報機能が危機にさらされる」とFEMA(連邦緊急事態管理庁)に事業を引き継ぐよう求めている。

非営利法人としてのPBS本部も8月半ばに予算を21%削減する方針を発表した。あわせて、約330の加盟局からの拠出金を3,500万㌦(約51億7,600万円)減額することも決定した。本部の運営費用の大部分は各加盟局が拠出する会費で賄われていた。同じくNPRの本部も800万㌦の予算削減を決めている。

しかし、最も打撃を受けるのは僻地の農村部にある小規模の公共放送局だ。地方新聞の衰退で地域情報の唯一の発信源となってきた公共放送局の多くは、予算の3割から9割を連邦政府からの助成金に依存していたため、存続の危機に直面している。オレゴン州やアラスカ州の局などが典型例で、経営基盤の脆弱さが浮き彫りに。サウスダコタ州の公共放送局はすでに25%の人員削減を発表している。

こうした事態を受けて公共放送局の救済に乗り出しているのが慈善家や各種財団だ。ジャーナリズムや地域社会、芸術分野を中心に支援しているナイト財団をはじめ、フォード財団やマッカーサー財団などを中心に初期資金2,650万㌦で「Public Media Bridge Fund(公共メディア・ブリッジ基金)」を設立。年内に5,000万㌦規模に拡大するという。連邦政府助成金への依存度が高い局を優先的に支援する方針で、特に農村部の公共ラジオ・テレビ局の存続を重視している。

このように米国の公共放送業界は存続と僻地支援を両立させながら、独自に新たな資金調達策を模索する段階に入った。しかし、慈善基金は緊急避難的な役割を果たすものの、制度的な基盤を欠いたままでは恒久的な解決は難しいとの意見もあり、公共放送の進むべき道を根底から考えねばならない事態は続きそうだ。

▶米政府系放送VOAも500人削減へ
一方、同じくトランプ大統領が「反トランプ的」と標的にしているのが政府系国際放送のボイス・オブ・アメリカ(VOA)だ。VOAを傘下に持つ米グローバルメディア局(USAGM)は8月29日、職員532人を削減すると発表した。大半はVOA従業員で、記者ら約100人は残すという。USAGMのカリ・レーク暫定経営責任者は「大統領が公約に掲げる政府機関縮小と国民の資金節約が目的」と強調するが、職員の有志は「解体が狙いだ」と反発。衛星放送・AM・FM・短波を通じて世界約50の言語で放送されていたVOAは、3月の大統領令(既報)以降、放送は4言語に縮小され、大幅な人員削減をめぐる法廷闘争が相次ぐなど混迷が続いている。

最新記事