「放送局がSNSとうまく付き合っていくために」後編 実際にどのようにしてトラブルが生じるのか~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」③

國松 崇
「放送局がSNSとうまく付き合っていくために」後編 実際にどのようにしてトラブルが生じるのか~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」③

SNSをめぐるトラブルについて、前編では主なトラブルの種類や内容のポイントについて解説を加えたが、後編ではSNSを使用する場面において、実際にはどのような状況下においてこうしたトラブルが発生するのか、という点について具体的に解説していきたい。また、末尾にSNSに関する最近の裁判例を紹介しているので、参考にしてほしい。

(1)「裏アカ」・「匿アカ」問題-身バレによる炎上-
「匿アカ」とは、実名を明らかにせず、匿名で開設・運用されているアカウントのことであり、「裏アカ」とは、同一人が複数のアカウントを保有できるSNSの特徴を活かし、実名・公式で設けているアカウント(表のアカウント)とは別に匿名で開設しているアカウントのことである。

こうしたアカウントでは、実名でないことから「どうせ誰が投稿したか分からないだろう」と気が緩んでしまい、つい過激な発言をしてしまう、フォロワーに受けやすい裏情報などを公開してしまうなど、要するに前編で挙げた「著作権等の侵害」「名誉棄損」「中立性への疑念」「企業秘密や個人情報の漏洩」に対するリスクマネジメント意識が低下してしまう傾向にある。SNSは誰が見ているか分からないため、こうした投稿が関係者の目に触れ、いわゆる炎上騒ぎに発展するような例は、実社会でも枚挙にいとまがない。

さらに問題なのは、こうして好き勝手に情報発信していた裏アカや匿アカが特定されてしまうことにより、本人はもちろんのこと、その所属先も炎上に巻き込まれる可能性があることである(こうした現象は「身バレ」などと呼ばれている)。

例えば、特定のタレントや政治家などを中傷するような投稿をしていた匿名アカウントが炎上し、当該アカウントの過去の投稿などをヒントに、それがテレビ局のスタッフだと「身バレ」してしまったら、当然そのテレビ局も無傷ではいられないだろう。SNS上の炎上はもとより、「社員やスタッフへの教育はどうなっているのか」「当該テレビ局も同様の考え方ということか」といったクレームや問い合わせが殺到することも十分に考えられる。無論、これは著作権侵害でも同じだ。常日頃から番組などの著作権保護を社会に呼び掛けている放送局の関係者が、個人アカウント上で著作権侵害行為を繰り返していたとなれば、所属組織を含め、より深刻な社会的非難を免れないことになる。

こうした事態に対応するために局が割かなければならない人的・経済的コストは決して馬鹿にはできないばかりか、信頼性の棄損という意味では、関係する放送局に取り返しのつかない損害を与えることにもなりかねない。著作権侵害や名誉棄損行為は犯罪でもあり、こうした点からいえば、薬物使用や傷害事件などと位置づけは何ら変わらないのである。場合によっては、アカウントの所持者は、社員であれば懲戒処分、外部スタッフであれば契約違反に基づく損害賠償請求の対象となり得ることを忘れないようにしたい。

(2)「鍵アカ」問題 -情報流出の火元-
「鍵アカ」とは、誰でも投稿が閲覧できるオープンなアカウントとは違い、アカウント所持者が承認した範囲内のメンバーしか投稿が閲覧できないように設定されたアカウントのことである。閲覧制限を掛けたSNSのほかには、たとえばLINEなどの日常的なトーク系のアプリ、各種SNSの機能として整備されているダイレクトメール(いわゆる「DM」)も、このカテゴリーに含まれるSNSツールといえよう。

鍵アカにおけるトラブルとしては、知り合いしか見ていないという安心感からか、特に情報漏洩が起きやすいと言われている。要するに、知人との電話の会話などと同じ感覚で、著名人のプライベート写真や、撮影スケジュールなどの番組情報をつい話してしまうわけだ。しかし、前編でも言及したとおり、こうした行為は守秘義務違反に問われかねない危険なものである。さらに、上記のとおり、ツイッターなどのSNSは複数のアカウント開設が可能で、かつ本人確認等の手続きも特に要求されていないことを忘れてはならない。つまり、気が付かないうちに自分の投稿を閲覧できるフォロワーなどの中に、いわゆる「成りすまし(他人の名称を語るアカウントのこと)」が紛れ込む可能性があるということである。これは特定の相手との電話などとは違うSNS特有のリスクだといえるが、とりわけ、テレビ局の職員やスタッフが持つ番組や出演者に関する情報は世間でも関心が高いものが多く、こうした「成りすまし」が紛れ込む危険性は一般のユーザーよりも高いと考えられる。

テレビ局の仕事に関わる以上、自分にとっては何気ない日常的な仕事の情報であっても、それがテレビ局だけでなく、タレント本人や所属事務所などにとっても重要な秘密情報に当たり得ること、そして、一部の領域では「売れるネタ」になる可能性があり、こうした情報を狙っている人間がいるということを、常に意識しておきたいところだ。

(3)SNSのトラブルをどのように防ぐか?
こうした背景があるなか、労使がきちんと協議したうえであらかじめ就業規則等に定めることで、SNSの利用をある程度制限することが可能ではないか、という議論も一部では行われており、実際に「SNS禁止」というルールを導入している企業も存在しているようである。しかし、こうした手法については、業務外の私生活上の行動に関して直接規制をかけるような就業規則が有効といえるかどうか、個人の表現の自由に企業がどこまで干渉し得るか、という非常にセンシティブな法的問題を孕んでおり、今のところ確立された法理論はまだない。言論機関でもある放送局が、雇用契約を結んだ社員等とはいえ、個人の表現の自由に直接的に介入するような手法を選択することに抵抗を感じる人も多いだろう。

したがって、上記のようなトラブルを未然に防ぐためには、結局のところ、職員・スタッフの一人ひとりが、SNSの利用には放送局の社会的信頼性を棄損しかねないリスクが潜んでいることを自覚し、その言動を自ら律していくほかない。また、会社あるいは多くの部下やスタッフを抱える管理責任者としても、個々人のリテラシーに任せきりにするのではなく、SNS利用に伴うトラブルや危険性などについて、最新の情報をもとに適切なアップデートの機会を設けるなど、時代に合わせた社員教育を施していくことが重要である。

(4)SNSをめぐる最近の注目裁判例

 事例①:名誉棄損に当たる元ツイートを
     単純リツイートする行為は不法行為に当たるか?
 判 決:当たり得る(大阪高裁令和2年6月23日判決)

<判決抜粋> (※下線、省略等は筆者による)
単純リツイートに係る投稿行為は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、元ツイートに係る投稿内容に上記の元ツイート主のアカウント等の表示及びリツイート主がリツイートしたことを表す表示が加わることによって、当該投稿に係る表現の意味内容が変容したと解釈される特段の事情がある場合を除いて、元ツイートに係る投稿の表現内容をそのままの形でリツイート主のフォロワーのツイッター画面のタイムラインに表示させて閲読可能な状態に置く行為に他ならないというべきである。そうであるとすれば、......リツイート主がその投稿によって元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り、違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き、当該投稿を行った経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず、当該投稿について不法行為責任を負うものというべきである。

➢ ある人物に対する名誉棄損表現を含む元ツイートを、単純リツイートした人物
 に損害賠償を命じた。この判旨の基準によれば、元ツイートについて、例えば
 「投稿内容に反対する意図を持ちつつ、抗議する意味で拡散させた」といった事
 情があったとしても、単純リツイートによる拡散があった以上は、原則として不
 法行為責任を負うということになる。

➢ このほか、同様のケースで東京地裁令和3年11月30日判決 は、単純リツイート
 行為について、「元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解す
 るのが相当である」と判示しており、積極的な賛同行為だと認定されてしまうお
 それもある。

 事例②:氏名表示のある写真を投稿した
     ツイートをリツイートすることにより、
     著作権侵害が成立し得るか?
 判 決:氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害になる
     場合がある(最高裁判決令和2年7月21日判決)

<判決抜粋> (※下線、省略等は筆者による)
被上告人は、本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが、本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより、本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなった......。......本件各ウェブページを閲覧するユーザーは、本件各表示画像をクリックしない限り、著作者名の表示を目にすることはない。...本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば、本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって、本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではない......。......以上によれば、本件各リツイート者は、本件各リツイートにより、本件氏名表示権を侵害したものというべきである。

➢ 写真投稿記事をリツイートすると、ツイッターの仕様により、リツイート先で
 は写真全部が表示されず一部がトリミングされた状態になる(閲覧者が画像をク
 リックすれば全体が表示される)。この仕様によって一旦非表示になった部分に
 著作者の氏名表示があったような場合は、リツイートによって当該氏名表示をカ
 ットしたと評価され得るということである。

 事例③:他人のSNS投稿をスクリーンショットしたうえで、
     自己のSNSに投稿することは著作権侵害となるか?
 判 決:スクリーンショットによる引用はツイッターの規約に
     反しているため公正な慣行に当たらず、
     スクリーンショットの画像が量・質ともに多い場合は
     引用の目的上正当な範囲内とも言えない。
     したがって適法な引用には当たらず、著作権侵害になる
     (東京地裁令和3年12月10日判決) 

<判決抜粋> (※下線、省略等は筆者による)
他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用して利用することができる(著作権法32条1項)。......ツイッターの規約は、ツイッター上のコンテンツの複製、修正、これに基づく二次的著作物の作成、配信等をする場合には、ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し、......他人のコンテンツを引用する手順として、引用ツイートという方法を設けている。......本件各投稿は、......上記手順を使用することなく、スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載している......。そのため、本件各投稿は、上記規約に違反する......、本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが、公正な慣行に合致するものと認めることはできない。また、......本件各投稿と、これに占める原告各投稿のスクリーンショット画像を比較すると、スクリーンショット画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成するといえるから、これを引用することが、引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。したがって、原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイッターに掲載することは、著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足しない......。

➢ 他人のツイートをスクリーンショットに収めて、自分のタイムライン上で表示
 したうえでその内容に言及するという方法は、ツイッター上で比較的よく見かけ
 る使い方ではあるが、こうした行為について東京地裁は引用の要件を満たさない
 という判断を初めて示した。

➢ ただし、本記事の掲載時点では、控訴審において審理中であり、確定判決では
 ないことに注意が必要である。

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