第55回火曜会ラジオ研修会 TBSラジオ「JUNK」や文化放送「ASMR特番」担当者が講演 ローカル局のマネタイズ考えるセッションも

編集広報部
第55回火曜会ラジオ研修会 TBSラジオ「JUNK」や文化放送「ASMR特番」担当者が講演 ローカル局のマネタイズ考えるセッションも

東京・大阪以外の全国37社の民放AMラジオのローカル局が加盟し、共同で番組制作に取り組んでいる地方民間放送共同制作協議会(火曜会)が10月26―27日、東京・銀座ブロッサムで第55回研修会を開催した。4年ぶりに対面での開催となった今回は、22社24人が参加した。「君たちはどう作るか~ラジオDX時代~」をテーマに、4つの講演・トークセッションを展開し、番組制作やマネタイズのアイデアなどを紹介した。

TBSラジオ「JUNK」に学ぶ番組制作

1日目は、TBSラジオ「JUNK」の統括プロデューサーを務める宮嵜守史氏(TBSグロウディア)と、タレントの奥森皐月さんが登壇。事前に参加者から寄せられた質問に答える形でトークを展開した。パーソナリティとの接し方についての質問が多く寄せられ、宮嵜氏は「『JUNK』のパーソナリティ5組それぞれで接し方は変えている」とし、番組に対するパーソナリティからの提案について「どこまで取り入れるか、逆にどれぐらいスタッフから意見するか、コミュニケーションを通じて接し方を考えるといい」と語った。

kayokai2023-12.JPG

<奥森皐月さん㊧、宮嵜守史氏

さらにリスナーとの接し方にも言及。リスナーの呼称について宮嵜氏は「自然発生的なものであるべきだと思う。リスナーの数を増やす前に番組側が決めてしまうと、新規リスナーへの間口を狭めてしまうのでは」と見解を語った。また、番組づくりで心がけていることとして「企画を台本にした後に、自分がリスナーだったらどう聴こえるかを必ず考える」「パーソナリティがリラックスした状態で番組に臨める空気づくりをする」と話した。

質疑応答では、若いリスナーの獲得方法を問われ、宮嵜氏は「若者を狙ってもなかなかうまくいかない。毎週聴いてくれる人を地道に増やすしかない」と答えた。「配信において数多くあるコンテンツの中から自分の番組を聴いてもらうためには」との問いには「番組のキービジュアルを工夫するとradikoなどで聴かれる確率を上げられるのでは」と応じた。また、宮嵜氏が「水曜JUNK」担当の南海キャンディーズの山里亮太さんへのインタビュー映像を流し、パーソナリティ側の意見を紹介した。

音声メディアのマネタイズ術

続いて、MBSラジオの髙本慧氏が音声コンテンツのマネタイズの方法を紹介した。髙本氏はMBSラジオ「MBSヤングタウン」でオーイシマサヨシさん(火曜)とAマッソ(木曜)のプロデューサーを担当しているほか、音声配信アプリ「Radiotalk」の取締役も務める。はじめに、デジタル音声メディアのマーケットの現状と見通しを説明したうえで、自身が実践しているデジタル活用の事例を紹介した。リスナーが配信コンテンツに直接お金を支払うことができる「Radiotalk」の機能を紹介し、「リスナーの数ではなく、番組に対する熱量を高めることでもマネタイズできる」と話した。

「番組を立ち上げる際に、マネタイズの手法を考えることが大切」と指摘。番組は①リスナーが多い、②リスナーは多くないが熱量の高い――ものに分かれると分析。①はポッドキャストやYouTubeでの配信、②ではグッズや有料イベントを通じたマネタイズを提案したうえで、「出演者の選定も大切。配信やグッズなどの二次展開は、出演者と事務所の協力があってこそ」と強調した。

kayokai2023-3.JPG

<MBSラジオ・高本慧氏>

参加者から、イベントをマネタイズする方法を問われ、「イベントまでに番組中でなにかストーリーを作り、それをグッズに反映させるとよい」と提案。また、「芸能事務所が放送局に頼らず音声コンテンツ事業に参入する可能性はあるか」との質問に対し、髙本氏は「あると思う。放送局が今まで培ってきたスキルやノウハウ、コンテンツを拡散するための地盤を持っておくことが大切だ」と述べた。

文化放送『ASMR特番』の音の"ヒミツ"

2日目は、文化放送『ASMR特番』についてデジタルソリューション部の加藤慶氏と、編成部の岡﨑歩氏が講演した。同番組は2019年から始まった高音質の音の魅力にフォーカスした長尺の不定期シリーズで、たき火や美容院、とんかつを揚げる音などをこれまでに24回放送している。企画した加藤氏は「われわれが少し"ななめ"なことに取り組むことで新鮮に受け取ってもらえる。オールドメディアであるラジオの古さが強みになる」と語った。また、同番組を通じて、長尺でも飽きさせないために、音の強弱を付けることの大切さを強く実感したという。事前質問で「番組内での"遊び"とは」と問われ、加藤氏は「基本線を守りつつ、いかに外すかを考えることが"遊び"だ」と応じた。

kayokai2023-10.JPG

<文化放送 岡﨑歩氏㊧、加藤慶氏>

岡﨑氏は「自分がどんな音が聴きたいか、そしてその音をどう表現するかを考えている」と説明。また、▷SNSであまり出ないワードをタイトルに付ける▷リスナーの予測をいい意味で裏切る▷エッジが効いたもの、季節感や親近感のあるもの、どちらにも取り組む――などのこだわりを説明した。質疑応答では、radikoの聴取データやマネタイズの側面を問う質問があり、加藤氏は「ASMR特番は、文化放送をPRするために取り組んでいる」と答えた。

また、上原裕司・技術システム部次長は事前収録した映像を通じて、音の録り方や収録風景、使用しているソフトを紹介した。同番組について「意地と惰性で続けている。世の中から求められなくなるまでは続けたい」と語った。

kayokai2023-11.JPG

<2日目の会場は文化放送メディアホール>

ローカル局の成功事例を紹介

続くトークセッションでは、琉球放送ラジオ局営業部の上原国泰、ラジオ関西ビジネスソリューション部長の青木達也、コミュニティ放送局「FM TANABE」の大﨑健志の3氏が登壇。各局が取り組む番組制作やマネタイズについて説明した。

上原氏は琉球放送が取り組むオンラインイベント事業を紹介した(「民放online」2022年3月7日、インタビュー記事掲載)。2020年5月に平日ワイド『MUSIC SHOWER Plus+』(月―金、10・00―13・55)のオンラインイベントを無料で開催。同年6月には『具志堅ストアー』(月―金、14・00―15・40)のイベントを有料で実施した。「スポンサーに依存せず、面白い番組を続けさせたい」との思いからイベントに取り組み始めたことを説明。また、番組にちなんだグッズ展開でのマネタイズを解説し、「番組で話題になっていることをグッズに反映させている」と話した。

kayokai2023-6.JPG

<琉球放送・上原国泰氏>

2023年にギャラクシー賞で優秀賞を受賞したFM TANABE『講談風 大河ラジオドラマ「弁慶記」』の企画や脚本などを担当した大﨑氏はドラマ制作の裏側を明かした。2022年3―7月に放送された同ドラマは1話10―15分の全60話で、和歌山県田辺市出身とされる武蔵坊弁慶の生涯を講談師の語りをベースに描いた。ドラマ制作の狙いを「地域活性化」と語る大﨑氏。地元住民が70人ほど声優として参加したほか、地元の中学校の吹奏楽部や市民楽団が演奏で協力した。

kayokai2023-7.JPG

<FM TANABE・大﨑健志氏>

青木氏はラジオの強みなどを伝えた。「ラジオはコンテンツを多く保有している。番組一つ一つで考えるとマネタイズする方法はたくさんある」とし、ラジオの強みとして▷マスメディアとしての中立性▷自社制作率の高さ▷情報の柔らかさ――などを挙げた。また、ラジオ関西のX(旧Twitter)の"中の人"として百貨店のアンバサダーなどを務めた経験もある青木氏は「SNSは1つの番組だと考えるとよい」「番組と同様にキャラクター性が必要」と話し、「SNSはラジオ局とスポンサーをつなげるツールになる」と伝えた。

kayokai2023-8.JPG

<ラジオ関西・青木達也氏>

トークセッションでは、ローカルラジオのあり方について、青木氏は「地元を大切にする番組とあわせ、全国に通じる番組も作っている」と述べ、上原氏は「ラジオを通じてコミュニティを作り、リスナーの生きがいを作りたい。番組を発信し続けるためにマネタイズを考えていく」と意気込んだ。また、「日ごろ心がけていることは」との問いに「社内への発信は大切だ。やりたいことがあればまず企画書を書いてみては」(青木氏)、「新しいことに取り組むために、今の業務時間を圧縮できるかを考える」(上原氏)、「ラジオドラマを作る場合は、古い名作に触れるといい」(大﨑氏)といった声が上がった。

kayokai2023-9.JPG

<㊧から上原氏、大﨑氏、青木氏>

最新記事