米のRSNビジネスモデル崩壊か 地上波ローカル局に好機との声も

編集広報部

リージョナル・スポーツ・ネットワーク(RSN)と呼ばれ、米国でローカルスポーツ専門チャンネルを展開する事業者のひとつ「ダイヤモンド・スポーツグループ」が11月初旬、NBA(男子プロバスケットリーグ)の13チームとの間で今シーズン(2023―24年)中の試合中継をダイヤモンド傘下のバリー・スポーツで継続することで合意した。ただし、ダイヤモンドは破産申請中で事業再建の途上だけに、来シーズン以降の放送権(リニアと配信の両方)を放棄し、その後はNBAがリーグとして主導権を握って再交渉が始まるものとみられている。

ダイヤモンドはNHL(プロアイスホッケーリーグ)ともNBAと同様の内容で交渉中と伝えられているほか、MLB(大リーグ野球)との契約は24年以降成立しないとの予測もある。かつて隆盛を極めたRSN事業はコードカットの急速な進行や高騰する放送権料を背景に崩壊の危機に瀕しており、スポーツリーグ側はRSNから地上波のローカル局での中継にシフトしたり、独自に配信のルートを開拓するなど「新たな時代の到来か」と米メディアは伝えている。

ダイヤモンドは米メディア大手シンクレア・ブロードキャストグループ傘下のRSNで、傘下に今回NBAの中継を引き継ぐことになったバリー・スポーツを有する。ただし、ダイヤモンドは多額の負債を抱え、今年3月半ばに再建型破産「チャプター11」(連邦破産法第11条、日本の民事再生法に相当)を申請し、事業再建を進めているところだ。

米メディアの報道によると、今回のダイヤモンドとNBAの合意には交換条件が付されているという。NBAの13チームは今シーズン、それぞれ最高で10試合をローカル地上波で中継する権利を有し、ダイヤモンドが来年2月にケーブル事業者との再送信権料の更新で合意に至らなかった場合、NBAはバリー・スポーツとの契約から自動的に離脱できるというもの。その代わり、ダイヤモンドはNBA契約チームへの今シーズン中継権料の支払額が割引される。そうしなければダイヤモンドの事業継続は難しいという深刻な背景があるようだ。割引額は公表されていない。

この合意に先立つ10月、ダイヤモンドから放送権料の支払いが滞っているNBAとNHLのチームは独自にスクリプスやシンクレア、グレイテレビジョンなどローカルテレビグループと契約を結んでいる。NHLのアリゾナ・コヨーテスとベガス・ゴールデンナイツ、NBAのユタ・ジャズとフェニックス・サンズの4チームだ。いずれも、ダイヤモンドとの契約が破棄された場合はローカル局が試合を中継するというもの。スクリプスはNHLのほか2チームとも同様の契約を進めていると伝えられている。地上波テレビ局以外にもViewLiftやKisweなどテック企業と提携し、試合の配信サービスを独自に開始したチームもある。

さらに、11月に入ってMLBのミネソタ・ツインズがダイヤモンドとのRSN解約を視野に選手の年俸を大幅に減額すると発表した。 スポーツ各リーグはRSNから巨額の放送権収入を得ているだけに、そのビジネスモデル崩壊がもたらすチームや選手の経済基盤への影響は大きいという。それでも、チーム側は地上波のローカル局経由でより多くの視聴者にリーチすることを選択したようだ。スクリプスと契約したアリゾナ・コヨーテスによると「RSNで80万世帯だったリーチが、地上波では300万世帯にまで増え、遠くはニューメキシコやソルトレークシティーまで視聴世帯を広げることができた」と地上波放送の利点を語っている。米オンラインメディアAxiosは「RSNの崩壊で、ローカル地上波が"棚ぼた"で恩恵を受けている」とスポーツ中継の新時代到来を匂わせている。

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