30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。11回は、三重テレビ放送の伊佐治好音さん。報道制作部でアナウンサーとして活躍する伊佐治さんは、現場で取材し、自らカメラを回してニュースや番組も制作しています。アナウンサーを目指したきっかけや、「伝える」ことの大切さを語ってもらいました。(編集広報部)
必要とされるテレビ局を目指して
「とにかく興味を持ってもらえる番組を」......私が今、番組を制作するうえで特に大切にしていることです。そのなかで取材対象者の「思い」がきちんと反映されるような構成を練ります。番組に興味を持って、最後まで見てもらえるように、幅広い年代の方々に理解していただけるような内容を目指しています。
とは言うものの、文章にするのは簡単で、番組として形にしようと思うと難しい時もあります。「タイパ(タイムパフォーマンス)」が流行語大賞にノミネートされるなど、時間に追われることの多い現代社会。短時間で高い満足度が得られることが重要視されていると思います。その環境下で少しでも番組に興味を持っていただくために、キャッチーな見出しをつける。映像の冒頭5~10秒でインパクトのある内容にする。そして、「ながら見」でも分かるようなシンプルな構成にするために、取材現場で聞いた「1から10」までの情報を、放送する時には「物足りない」と思うまでに割愛することも少なくありません。
「若者のテレビ離れ」が問題視されるなか、視聴者に興味を持っていただき、必要とされるためのテレビ局を目指して日々模索しています。そのために忘れてはいけないことは「取材をさせていただいている」という気持ちだと思います。制作者だけでなく、アナウンサー、カメラマン、編集マンなどそれぞれの分野に携わる人たちがワンチームとなって、「良い番組にする」という同じ目標に向かってこれからも力を尽くすことができればと思います。
「それは違います」
「取材させていただいている」と書きましたが、そんな思いが感じられないような行動を私はとりました。
以前、三重刑務所で三重県の伝統工芸品に指定されている「伊賀くみひも」を模した「くみひも」づくりを受刑者に指導する作業技官の方を取材しました。その作業技官の方は刑務作業を通して受刑者に「ここに居ることを忘れさせてやりたい」と話されました。罪を犯した人間の更生が目的のこの場所に「居ることを忘れさせたい」――その言葉にどうしても納得がいかなかった私は、ためらうことなく「それは違います」と真っ向から否定し、「反省する場所ですよね?」と問いかけました。
その言葉に対して作業技官の方は怒ることなく「お金がないことで罪を犯す人間が多い。刑務所に居ることを忘れるくらい刑務作業に没頭することで、社会に出た時に同じように仕事に没頭してもらい、ちゃんとお金を稼げるようになれば再犯防止につながる」と話してくださいました。その言葉を聞いて、自分が固定観念を持って取材に臨んでいたことを思い知らされ、制作者として未熟であることを痛感したのです。
<制作者フォーラム2024での受賞を報告>
言葉は時には凶器となり人を傷つけることもあれば、人を癒し、勇気を与えられるような大きな「力」にもなると思っています。三重刑務所での取材を通して「制作者」そして「アナウンサー」として言葉が持つ奥深さを理解しつつ、公共の電波を使って発信される「言葉」の重みを理解して、情報を伝えたいとあらためて思いました。
アナウンサーとは
「伝える」という点で、どうして私がアナウンサーを志すようになったのかあらためて考えました。
「声がきれいだね」......私は中学生の頃、放送部に入り校内放送を担当するようになって、たくさんの先生方から褒められました。それまでは自分の甲高い声が嫌いで、コンプレックスだった「声」。ですが、その言葉がうれしく、自信につながり、その声を活かして人や社会の役に立ちたいと思うようになりました。そんな時、声を活かして情報を伝える存在として最も身近だったのがアナウンサーでした。こうして、中学生の頃から漠然とアナウンサーを目指すようになったのです。
時がたつにつれ、夢だったアナウンサーの仕事が目標となり、就職活動では100社以上のテレビ局を受験しましたが、私の実力不足で全て不合格。新卒で入社したケーブルテレビで撮影や編集などの技術を一から教えてもらいました。
そして念願だったアナウンサーとして三重テレビに入社し、原稿を読むだけでなく、取材現場へ行って原稿を出稿し、時にはカメラを回して自分の撮った素材で編集もしながらニュースや番組を制作するなど、毎日があっという間に終わる生活となりました。そのなかで気がついたこと、気づかせてもらったことがあります。自分の声を活かしたい、情報をたくさん伝えたい、そんな思いが先行してどこか自分本位で物事を考え、周りが見えていない時がありました。
<地元の和菓子屋さんを紹介するコーナー「いさじのさじ加減」取材風景>
記者、カメラマン、編集マン、アナウンサーなどひとつの番組が放送されるなかでたくさんの人が関わっています。その人たちの思いを背負って、アンカーとしてアナウンサーが電波に乗せて情報を届けます。オンエアまでには並々ならぬ時間や労力などが隠されていて、それらの全てを背負うからこそ、より良い番組を作り上げるためにアナウンサーは周りを見ながら、的確に情報を伝える役割を果たさなければならない。いろいろな仕事に携われる三重テレビだからこそ、私に足りなかった、大切な部分を教えてもらいました。
視聴者の目線に立ち、寄り添いながら、これからも真摯に仕事と取材対象者に向き合い、アナウンサーとして、時には制作者、カメラマン、編集マンとして人や社会の役に立てるような情報を発信していきます。