30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。第26回は、文化放送の森島千智さんです。コロナ禍の大学時代をラジオに支えられた森島さんに、制作現場の面白さや番組にとどまらないラジオの広げ方について語っていただきました。(編集広報部)
ラジオに支えられた大学時代
大学生活をコロナ禍が直撃し、一人暮らしで誰とも話さない日が多く、心細い毎日を過ごしていました。そんな時の私のいちばんの楽しみは深夜ラジオでした。直接見えないけれど、同じ時間にラジオブースで楽しいことが起こっている。タイムラインを見れば、仲間がいる。大学生の私にとってラジオは、習慣であり趣味であり、心の支えでした。
アイデアが形になり、届ける手ごたえ
制作現場の楽しさは、自分のアイデアをそのまま形にできることと、その反応を直接受け取ることができるところです。アイデアとして結実したのが、2025年4月にスタートした『#C-pla presents =LOVE齋藤樹愛羅・≠ME櫻井もものしーぷらじお』(日、21:00~21:30)や、特別番組『日向坂46・高瀬愛奈 卒業記念!「まなふぃのふぃ〜するラジオ」』(2025年4月29日、12:00~13:00)です。番組の立ち上げから携わり、細部の演出まで担当しました。番組内で使用するBGMやSEはすべて自分で選定しましたが、音だけで空気を作っていくラジオの世界では、この部分の工夫が本当に難しくもあり、面白いところでもあります。文化放送はAMのラジオ局ということもあって、古臭くはなりたくないけれど、おしゃれになりすぎない、親しみやすさを忘れない、という「ちょいダサ」を狙う自分なりのこだわりを持って制作しています(笑)。
例えば、特別番組『日向坂46・高瀬愛奈 卒業記念!「まなふぃのふぃ〜するラジオ」』では、ご本人のキャラを活かした「まなふぃさん、お邪魔します!」という大喜利コーナーを企画しました。お家になかなか人を入れない高瀬さんが、どのような理由でなら入れられるかというお題で、リスナーから回答を募集。お家に入れない!と判断した回答には、高瀬さんが参加したユニット曲『「ノックをするな」/けやき坂46』を、お家に入ってもいい!と判断した回答には、『「おいで夏の境界線」/けやき坂46』をSEとして流しました。放送時、「ここでその曲を使うのか!」とリスナーからたくさんの反響をいただき、とてもうれしかったことを覚えています。
番組へのメールやXのハッシュタグポストでは、リスナーの声が良くも悪くもまっすぐ届きます。これもラジオの魅力だと感じています。一対一の感覚で楽しむメディアだからこそ、感想を発信しやすいのかもしれません。毎週、自分が担当している番組の放送のたびに、ドキドキしながらハッシュタグの投稿を追っているのですが、演出についてもリアクションをいただけることがあり、それが何よりのモチベーションになっています。そうやってリスナーに"届いた実感"を持てることが、私にとってラジオという仕事の醍醐味のひとつです。
番組を"続けていく"という仕事
『宮下草薙の30分』(金、26:30〜27:00)では、番組イベントを2年連続で開催しています。
昨年、「番組でイベントをやりましょう!」と自ら提案したものの、「入社2年目で番組イベントの責任者を務めて大丈夫なのだろうか?」と実は不安ばかりでした。しかし先輩方に手取り足取り教えていただきフォローしていただいたことで、無事に開催することができました。チケット販売ページの作成や、会場設営の依頼、グッズの製作、イベント全体の収支管理など、小規模のイベントでしたが、想像以上にやるべきことがたくさんあり、普段の番組制作とはまた違う経験を積むことができました。一つ一つできることが増えていく中で、手応えや自分自身の成長も実感したイベントです。
<番組として初となったイベント「宮下草薙の90分」>
人との関わり合いも学び
出演者やスタッフ、リスナーとの関係構築も番組を楽しく続けていくための自分の中での大きな課題です。ラジオの番組では、新しいアイデアを次々に捻り出していく、というよりも、チームや番組の"ノリ"や"空気感"を醸成していくことが、リスナーとの関係づくりにも通じ、番組成功の鍵となるんだろうな、と感じています。一緒に仕事をしている先輩方は、10〜30歳ほど年上のベテランの方が多く、入社当初はコミュニケーションの取り方に少し戸惑うこともありました。入社して感じたいちばんのギャップは、「年の離れた先輩方と、こんなにフランクにおしゃべりするものなんだ!」ということでした。今では、気軽に雑談をしたり、自分から相談に乗ってもらったりするようにもなりました。
出演者やスタッフへのちょっとした声のかけ方や、間の取り方、収録中の動きなど、先輩方からは日々学ぶことがあり、刺激と勉強の連続です。丁寧に時間を使って教えていただけるのは、若手の今だけという意識で、日々なるべく多くのことを素直に吸収したいと思っています。
ラジオの空気を、もっと外へ
一方で、幼い頃からインターネットが普及した環境で育った「Z世代」と呼ばれるわれわれには、ラジオの未来のために求められている目線もあると感じています。
今の時代、ラジオを自発的に聴いてみようと思う人は多くはいません。制作の仕事をする中で、ラジオの魅力と同時に、その「広まりづらさ」を感じるようになりました。音声だけでは、たとえ内容がどんなに面白くても、映像媒体と比べて世の中に届きにくい現実に直面しています。番組の面白さを世間に知ってもらうために、SNSではハッシュタグ、切り抜きのショート動画、ライブ配信など、音声メディアを超えて"ラジオの空気"を届ける工夫が必要だと感じています。番組の固定リスナーを作るということは、人の習慣を作るということ。簡単ではありませんが、コロナ禍にラジオの面白さを知り、ラジオが習慣となり、心の支えになる経験をした自分だからこそ、その視点も忘れずに活かしていきたいです。
届けるだけではなく、広げていける人に
普段の放送だけではなく、番組イベントやグッズ製作、SNS展開、企業とのコラボ企画など、番組とリスナーの接点を広げるための施策を実現していけるようなバイタリティを、自分自身がもっと持てるようになりたいです。「面白そう」と思った感覚を大切に、番組とリスナーにしっかり向き合い、形にしていけるようなアイデア力とエネルギーのある人間を目指しています。