放送と制作者の応援団であり続けたい 設立50年を迎えた放送文化基金 

梅岡 宏
放送と制作者の応援団であり続けたい 設立50年を迎えた放送文化基金 

1974年生まれの50歳

「わが巨人軍は永久に不滅です」と語る長嶋茂雄のシルエット。長嶋の現役引退のテレビ画面に多くの人が胸を熱くし、TBSのドラマ『寺内貫太郎一家』では毎回のように、お茶の間で小林亜星演じる石材屋の親父が息子役の西城秀樹をぶん投げるシーンにハラハラする。そんな1974年(昭和49年)に放送文化基金は誕生した。テレビ創成期から黄金時代へと向かう、そのど真ん中。NHKが現在の渋谷に移転する前の内幸町の旧東京放送会館の土地建物が高く売れ、その一部の120億円が放送文化向上のための基金となった。当時は巨額な基金の財団として大きな話題になったというが、財団は放送文化の向上のため、助成、基金賞、そして国際協力などの事業を大規模に展開した。

それから50年、『寺内貫太郎一家』にあったようなお茶の間のコタツでみんなでテレビを見るという時代は遠く過ぎ去り、テレビの見られ方は劇的に変わった。テレビを見ない世代にどうアプローチするか制作者は頭を悩ませながら番組を作っている。放送文化基金は基本財産を守りながら時代にあった事業のあり方を模索してきたが、「これが放送文化だ」と言えるものも曖昧になってきた。

今年2月1日で設立50年、ネットにはできない放送の力とは何なのか思案が続く。放送の守るべきものはしっかりと守りたいし、新たなメディア環境のなかで変わるべきものはその変化を促したい。新たな可能性、芽のようなものがあれば見極めて支援したいものだと思う。放送文化基金の活動について知らない方も多いと思うので、私どもの活動や力を入れたいと考えていることを少し紹介させていただきたい。

放送文化基金賞~番組と配信コンテンツが競う時代に

今年50回を迎える放送文化基金賞。ドキュメンタリー、ドラマ、エンターテインメント、ラジオ、そして放送文化、放送技術の6部門があり、「視聴者に感銘を与え、放送文化の発展と向上に寄与した番組、そして放送文化・放送技術の分野で顕著な業績をあげた個人・グループ」を表彰している。毎年、各部門の審査委員が高い見識をもって議論を交わし、時代と向き合う優れた作品や制作者、功労者を選んできた。私も制作した番組が何回か受賞の栄誉にあずかったが、賞というのは制作者にとっては本当に大きな励みになるし、組織のなかでの応援にもなる。昨年、文化庁の芸術祭で放送番組の表彰が終わったのは残念なニュースだったが、基金賞はもちろん"不滅です"。

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 49回目となった昨年、基金賞は大きな決断をした。表彰対象を「従来の放送番組だけでなく、日本国内に拠点を置く会社が企画制作した配信コンテンツを含める」ことにしたのだ。放送と通信の融合時代を先取りした形で基金賞を進化さていきたいというものだ。ただ昨年は周知不足もあったせいか、配信コンテンツの応募は1本もなかった。本年度は周知をしっかり行い配信事業者各社は応募する意欲十分だ。

Netflix、Huluなどの配信コンテンツと放送番組が競う時代がいよいよ到来する。50年前には想像できなかった状況だ。お金のかけ方が違うという声もあるし放送側にとってはこれまで以上に厳しくなるが、それだけ広い土俵でコンテンツ制作力を競う時代になったということだと思う。本年度の募集の締め切りは4月3日。奮ってご応募をお願いしたい。
50回目となる今年は、50周年記念賞も出す予定。こちらの方も乞うご期待。

制作者フォーラム~熱いぞ!ミニ番組コンテスト

民放、特に地方の民放の皆さんと接点が多いのはこの分野。放送文化基金では、1990年代半ばから局や系列などの違いを乗り越えて番組制作者の育成を目指す「制作者フォーラム」を全国5地区北日本、北信越、愛知・岐阜・三重、中・四国、九州・沖縄)で順次立ち上げ、開催している。各局の若手が制作したミニ番組を持ち寄るミニ番組コンテストが中心で、夕方の情報番組で放送したリポートなど、デイリーの仕事のなかで制作者たちが見つけ育んだネタをぶつけ合い、ゲスト審査員がジャッジする。粗削りな作品も多々あるが、ベテランが長尺番組で賞を狙うコンクールとは違う、若い作り手たちの熱気がある。

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「全国制作者フォーラム」では、各地区で入賞した作品を全て見て、さらに議論を深めていく。ここでのアドバイスを活かして長尺の番組へと育っていく作品も多い。先日開催された全国フォーラムは、この民放onlineの記事で「上映中は涙や笑いが絶えなかった」とご紹介いただいたが、ゲスト審査員たちの的を射た辛口指摘がいろいろな気づきを与えてくれる会だった。

私も若い時こんな場があればもっと視野を広げて番組が作れたとうらやましく思ったりもする。地方でも東京でもNHKと民放の枠を越えた交流の場は意外と少ない。上司の頭が固くて困った記憶があるが、そんな時、他社の優秀な制作者と情報交換し、刺激しあえるのは本当に貴重な経験となるはずだ。テレビが逆境のなかにあるからこそ、若い制作者たちが伸びやかにテレビ作りの面白さや奥深さを再確認できる、こうした放送界の「広場」をもっと作っていきたいと思う。

2024年度は全国5地区で開催、全国フォーラムも開催する。若い制作者たちの熱量をぜひ体感してみてほしい。

助成~「その挑戦、最大500万円で支援します!」 

放送文化基金の事業の3つの柱の一つ「助成」は、皆さんにこれからもっと活用してもらいたいと考えている分野だ。技術開発、人文社会・文化などの部門があってこれまで技術系・人文系研究者たちの放送関連の研究を主に助成してきた。この50年間で助成金の総額は128億円、来年度はおよそ7,000万円の助成金を計上している。

この4月からは新たに「イベント事業部門」を創設する。各種事業への助成はこれまでも行ってきたが、逆境のいまこそ放送の存在感を向上させる事業や放送の未来を担う人材育成事業をこれまで以上に助成をしたいと考えている。

「その挑戦、最大500万円で支援します!」がキャッチフレーズ。イメージしているのは、放送の新たな突破口を開きたいという挑戦、といっても漠然すぎるが、思いつくのは、地域のすべての放送局でタッグを組んで防災メッセージを発信するようなメディア連携の取り組み、放送とネット融合時代のコンテンツ制作をリードする人材育成の場作りなど。もっと斬新な取り組みも大歓迎だ。オワコンと呼ぶ人もいるが、テレビにまだまだできることがあるはず。放送の存在感を上げるアイデアが実現し、放送が少しでも元気になるきっかけになれば幸いである(詳しくはこちら)。

放送文化基金は基本財産120億円の運用益で全てを賄っているので、やれることに限りはあるが、放送の、放送制作者の応援団であり続けたいと思うし、メディア状況の変化を受けとめながら、放送を中心とするメディア文化の応援団であり続けたいと考えている。50年を迎えた放送文化基金にご支援ご協力を、そして積極活用を!

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