2025年春ドラマ総括 テレビへの危機意識に呼応した作品群 怪作も居並ぶ

成馬 零一
2025年春ドラマ総括 テレビへの危機意識に呼応した作品群 怪作も居並ぶ

2025年春クール(4~6月)のテレビドラマは、テレビ局や芸能界を舞台にした作品と、自分たちの日常生活を見つめ直そうという作品が多かった。

"大人のラブコメ"人気シリーズ続編は成熟した月9に

この二つの要素が同時に描かれていたのが月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)で放送された岡田惠和脚本の『続・続・最後から二番目の恋』(以下、『続・続・最後』)だ。

本作は2012年に第一作が放送された『最後から二番目の恋』シリーズの最新作。テレビ局勤務のドラマプロデューサー・吉野千明(小泉今日子)が鎌倉の古民家に移住した際にお隣さんとなった鎌倉市役所勤務の長倉和平(中井貴一)と長倉家の家族との交流を深めていく場面を大人のラブコメとして描いた物語は、千明が働くキラキラとした東京のテレビ局と、時間の流れがゆったりとした閑静な鎌倉の街並みの対比によって死と老いを描くホームドラマとして高い評価を獲得していた。

2014年の『続・最後から二番目の恋』から11年を経て、まさかの続編となった本作だが、物語は11年の時間経過を活かしたものとなっていた。千明が勤めるテレビ局や彼女の友人が勤めるレコード会社、出版社はオールドメディアとして凋落の気配が漂っており、漫画に関連したものでないと売れなくなっている。一方、鎌倉はインバウンド効果で外国人観光客が押し寄せ、活気に満ちており、定年退職した和平も担ぎ出されている。

昔からテレビ局ネタは多かったが、千明が「なんで、Netflixは私を誘わないのかね?」と言う場面を筆頭に自虐的な笑いが増えている。このあたりは昨年ヒットした『不適切にもほどがある!』(TBS系、以下『ふてほど』)の影響を感じるのだが、今クールのテレビ局を舞台にしたドラマを観ていると『ふてほど』やテレビ局の報道を題材にした2022年の社会派ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(関西テレビ・フジテレビ系)の影響を感じるものが多い。

この2作にはテレビに対する危機意識が強く滲んでいたが、その危機意識に作り手が呼応した結果が『続・続・最後』を筆頭とするテレビ局を舞台にしたドラマの隆盛なのだろう。これまでチーフ演出だった宮本理江子が早期退職したため参加していなかったのは寂しかったが、少し引いた距離感から観察するように対象を見つめる宮本の演出が消えたことで、物語のユートピア感は増しており、それが年をとって丸くなった千明と和平の心情ともマッチしていた。

前シリーズまで、大人のドラマ枠である木曜劇場(フジテレビ系木曜夜10時枠)だった『続・続・最後』は、今回は若者向けの月9での放送となったが違和感は全くなく、むしろかつて月9を観ていた高齢の視聴者の支持を受けることで成熟した月9という印象を深めることとなった。今後も『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)のように毎年放送してほしいものである。

 対して、今クールの木曜劇場で熱狂的な支持を受けたのが『波うららかに、めおと日和』だ。本作は昭和11年に、帝国海軍中尉の江端瀧昌(本田響矢)とお見合い結婚したなつ美(芳根京子)を主人公にしたラブコメディ。なつ美と瀧昌のピュアなやりとりが視聴者から支持された本作で、情報過多な現代だと難しいシチュエーションが成立したのは舞台が戦時下だからだが、ここまでキュンキュンする恋愛ドラマをやりきった本作の潔さに困惑しつつも、最終話まで楽しんだ。

ラブストーリーを軸にした報道の"お仕事ドラマ"

日本テレビ系では復活した水曜ドラマ(水曜夜10時枠)で放送された『恋は闇』が面白かった。本作は情報番組のディレクター・筒井万琴(岸井ゆきの)が週刊誌のフリーライター・設楽浩暉(志尊淳)と共に「ホルスの目殺人事件」を取材する中で知り合い、恋に落ちる物語。

『あなたの番です』(日本テレビ系)や『真犯人フラグ』(同)の制作スタッフが手掛けるということもあり、放送前は考察要素満載のミステリードラマになるかと思われたが、本編は事件となんらかの関わりを持つと思われる浩暉と、被害者に寄り添う報道を目指す万琴のラブストーリーを軸に「報道のあり方を問いかける」お仕事モノのドラマとしての側面が全面に打ち出されていた。

脚本を担当した渡邉真子は、ねむようこの漫画をドラマ化した『こっち向いてよ向井くん』(2023年、日本テレビ系)の卓越した恋愛描写で注目された。『恋は闇』はオリジナルドラマで、渡邉ならではの恋愛や仕事の描写に光るものがあった。残念ながら最終話は考察系ミステリードラマとして風呂敷を畳むことを優先するあまり、これまでの面白さが崩れてしまったが、最終話まで楽しませてくれたという感謝の気持ちの方が強い。脚本家としての力量は本作で証明されたと思うので、次回作に期待したい。

"芸能界内幕モノ"の怪作

乱立した芸能界内幕モノの中で、もっとも怪作だったのがテレビ東京のドラマ24(金曜深夜2412分~)で放送された『ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~』だ。

本作は芸能事務所のベテランマネージャーの吉川恵子(松下由樹)が、街でスカウトした青年・森山拓人(野村康太)を新人俳優として育てあげる姿を描いたサクセスストーリー、かと思いきや、恵子が森山に対してマネージャーの枠を超えた歪んだ愛情をぶつけ、彼を売り出すために次々と卑怯な手段をとって芸能関係者を恫喝していくというホラードラマとなっている。見どころは何といっても松下由樹の怪演。マネージャーであり森山の熱狂的なファンでもある恵子から終始目が離せなかった。中年女性が若い男性に向ける推し活&母親的欲望がエスカレートしていく姿は恐ろしいが、同時にどこか悲哀も感じる歪んだ愛の物語である。

現代性を持つスポ根ドラマの怪作

一方、かつての王道を貫いたことで、令和の現代においては怪作となったのが、木曜ドラマ(テレビ朝日系木曜夜9時枠)で放送された『PJ ~航空救難団~』だ。

本作は航空自衛隊航空救難団の救難教育隊の訓練生たちが主任教官の宇佐美誠司(内野聖陽)の熱血指導の元で成長していく姿を描いた物語。80年代の『スクールウォーズ』(TBS系)や00年代の『ROOKIES』(同)のような教師と生徒たちの絆を描いた熱血スポ根ドラマを、航空自衛隊を舞台に描く本作を観た時はハラスメントに厳しい令和の現代にこんな話が成立するのか? と半信半疑だった。

宇佐美教官を演じる内野の演技は大声で叱咤激励する暑苦しいもので、訓練も外から観ていると虐待スレスレの過酷なものばかり。しかし、教官と訓練生の信頼がしっかりと描かれているため、観ていて不快には思わなかった。

逆に宇佐美の娘の大学生・乃木勇菜(吉川愛)が卒論のために航空自衛隊を取材する姿を挟み込むことで、宇佐美の指導は現代において許されるのか? という批評的視点が挟み込まれていたドラマとなっていた。

一見、時代錯誤に見えるが現代性をとても意識したスポ根ドラマの怪作だったと言えよう。

社会問題を掘り下げるドラマの到達点

そして、現代的なドラマを作り続けてきた火曜ドラマ(TBS系火曜夜10時枠)の決定版と言える仕上がりだったのが『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』だ。

本作は専業主婦の村上詩穂(多部未華子)を中心に、仕事と育児の両立に悩む長野礼子(江口のりこ)、厚生労働省で働くエリート官僚で現在は育休中の中谷達也(ディーン・フジオカ)といった子育て世帯の悩みを多角的な角度から描いたラブコメとなっている。

観ていて感じたのは、労働と育児の現場に今の日本の問題は集約されており、そのしわ寄せが子育て世帯に押し寄せているということ。同時に専業主婦とキャリアウーマンの対立といった一昔前のドラマがやっていたような安易な対立構造を本作は意図的に解体しており、むしろ立場によって分断していると思い込まされている子育て世帯を同じ悩みを抱える仲間としてつなげようとしているように感じた。ラブコメを通して社会問題を掘り下げてきた火曜ドラマの一つの到達点である。

村上春樹の作品世界を映像化

最後に映像作品として珠玉の仕上がりだったのが、土曜ドラマ(NHK土曜夜10時枠)で放送された『地震のあとで』だ。

本作は村上春樹の連作短編小説『神の子どもたちはみな踊る』(新潮社)を映像化したものだが、小説の舞台が阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件の起きた1995年だったのに対し、ドラマでは95年から現在(2025年)までの30年間の物語となっており、その時々に起きた天災や事件を背景にした全4話の物語が展開されている。

演出は『あまちゃん』(NHK)の井上剛。徹底してリアリティを追求するからこそ、どこかファンタジックに見える井上の演出は、村上春樹の世界と相性が良く、虚実の混濁した不可思議な映像作品に仕上がっていた。迷宮の中を彷徨っているかのような独自の映像体験をぜひ味わってほしい。

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