TBSテレビが所蔵する貴重なアーカイブ映像をデジタル修復して劇場公開する「TBSレトロスペクティブ映画祭」が5月2日(金)から東京・阿佐ヶ谷の「Morc阿佐ヶ谷」を皮切りに、全国で順次始まる。初めての開催となった昨年は劇作家や詩人などマルチに活躍した寺山修司が1960年代に構成を手がけたドキュメンタリー5作品を上映した。2回目となる今回は元TBSのディレクターで後に映画監督など多彩な分野で活躍した実相寺昭雄を取り上げる。
実相寺昭雄(1937年~2006年)は1959年にTBS(当時はラジオ東京)に入社、主に演出畑でさまざまな番組に携わる。65年には同社の映画部に異動し、当時勃興期にあった円谷プロダクションに出向。ここで手がけた『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』といった特撮ものにおける、特に逆光、被写体とカメラの間に物を置いて奥行を出す空間構成、超クローズアップや大胆な移動撮影といった独特の演出で、幅広い世代に知られる。70年のTBS退社後は、ATG(非商業主義の芸術性を指向した映画会社)の映画やCM、オペラの演出などにも進出する一方、テレビでも70~80年代に『オーケストラがやって来た』(TBS・テレビマンユニオン)、『遠くへ行きたい』(読売テレビ・テレビマンユニオン)などの文化・教養・紀行系番組で腕を奮った。83年のドラマ『波の盆』(日本テレビ・テレビマンユニオン)で第38回文化庁芸術祭大賞と第1回ATP賞グランプリを受賞。88年に映画『帝都物語』をヒットさせる。
子ども向けから成人向け作品までメディアとジャンルを問わない表現にチャレンジした実相寺昭雄。その作風を映画評論家の樋口尚文氏は著書で次のように分析している。
「フィルム、VTR、ハイビジョンとハードの違いをことさら意識することなく、むしろ強引に『テレビ映画』で培った自らの生理でねじ伏せながら数々のソフトを作り出していった」¹
「従来の『テレビ』と『映画』、『子ども文化』と『大人文化』という対峙が崩れて超ジャンル的に重なり合う場所に、独特な立ち位置を築くことになったのである」²
そんな実相寺昭雄の作品のうち、今回は1960年代の駆け出し時代に制作した"幻"といわれるドラマ、音楽番組、ドキュメンタリーから、これまで広く再放送や上映することのなかった8作品が60年の時を経てデジタル修復を施され、スクリーンでよみがえる。
同映画祭をプロデュースするTBSテレビ・ドラマ制作部の佐井大紀氏は「実相寺昭雄は僕が中学生時代に初めて"作家"として映像作品を意識した監督でした。そんな個人的な思いもあって、社の後輩として正面から取り組んでみようと思いました。リアルタイムで見たのは幼稚園にも入る前の『ウルトラマンティガ』(1996~97年)ですが、それ以後、60年代後半の『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』や、その後のATG作品などを浴びるように観るうちに、実相寺はけっして"特撮の人"でも"ウルトラの人"でもないと思うようになりました。円熟期を迎える以前、電気紙芝居と揶揄され映画に比べてはるかに地位の低かったテレビ草創期に、あえてテレビという場で表現の可能性を試行錯誤していた実相寺昭雄。ハングリーで熱くて、青臭い青年時代の作品を、映画館のスクリーンで特に若い方々に見ていたければ」と民放onlineの取材に答えてくれた。
<TBSレトロスペクティブ映画祭の予告編(外部サイトに遷移します)>
上映ラインアップは次のとおりで、佐井プロデューサーが監督したドキュメンタリー映画2作品も上映する。また、会期中は実相寺昭雄とゆかりのあるゲストと佐井プロデューサーの舞台あいさつとトークショーも予定されている。詳細はこちらをご覧ください(外部サイトに遷移します)。
●ドラマ『おかあさん』(デジタル修復版)
▷第178話「あなたを呼ぶ声」(1962年6月14日放送)
脚本:大島渚 出演:池内淳子、戸浦六宏
▷第184話「生きる」(1962年8月2日放送)
脚本:石堂淑朗 出演:菅井きん、原保美 音楽:冬木透
▷第190話「あつまり」(1962年9月13日放送)
脚本:田中堅太郎 出演:斉藤チヤ子、田村正和
▷第207話「鏡の中の鏡」(1963年1月10日放送)
脚本:須川栄三 出演:朝丘雪路、和田周
▷第212話「さらばルイジアナ」(1963年2月14日放送)
脚本:田村孟 出演:原知佐子、川津祐介 音楽:八木正生
▷第236話「汗」(1963年8月8日放送)
脚本:恩地日出夫 出演:稲垣美穂子、加賀まりこ
●『7時にあいまショー』「坂本九ショー」(HDリマスター版、1963年6月8日放送)
構成:永六輔 出演:坂本九、古今亭志ん朝、永六輔、いずみたく 朗読:原知佐子
●『現代の主役』「ウルトラQのおやじ」(HDリマスター版、1966年6月2日放送)
出演:円谷英二、円谷一、金城哲夫 音楽:冬木透
●『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』(2023年2月24日公開 配給:KADOKAWA)
監督・編集:佐井大紀 出演:安藤紘平、シュミット村木眞寿美、今野勉 語り:堀井美香、喜入友浩(TBSテレビ) イラスト制作:臼田ルリ
●『方舟にのって〜イエスの方舟 45年目の真実〜』(2024年7月6日公開)
監督・編集:佐井大紀 出演:千石まさ子、千石恵 イラスト制作:臼田ルリ
なお、民放onlineは同映画祭の開催にあわせて実相寺昭雄に造詣の深い映画評論家・樋口尚文氏と佐井プロデューサーとの対談を企画しました。こちらもぜひお読みください。
¹ 樋口尚文『テレビヒーローの創造』筑摩書房、1993年、p.209
² 樋口尚文『実相寺昭雄 才気の伽藍 鬼才映画監督の生涯と作品』アルファベータブックス、2016年、p.21