▶NABの「Future of Television Initiative」
NAB(全米放送事業者連盟)は1月17日、報告書「Future of Television Initiative(テレビの未来構想)」を発表した。次世代テレビ放送規格「ATSC3.0」への移行を業界とNAB、FCC(連邦通信委員会)の官民協力のプロジェクトと位置づけるとともに、すべての消費者が高画質で無料のローカル地上テレビ放送にアクセスできるよう、その移行を完了させるためのロードマップといえそうだ。同報告書は2023年春のNABショーでFCCのジェシカ・ローゼンウォーセル委員長(当時)が検討に着手したと発表していた(参考記事はこちら)。
報告書がまず提言したのは、消費者レベルへの普及だ。ATSC3.0規格は現在、全米全世帯の4分の3(76%)で受信が可能(冒頭画像は推進機関ATSC〔Advanced Television Systems Committee〕発表の導入状況)。放送局側の準備はここまで進んだが、実際の受信機普及率は依然として明らかではない。このため、安価なチューナーを市場に投入するとともに、旧規格ATSC1.0と新規格3.0間で下位互換性のあるコンバーターやチューナーのコスト低減と、そのための財源確保を進めるべきと提言した。ちなみに、コンバーターの売上台数は2026年までに年間40万台になると予測。ATSC3.0搭載の次世代テレビの売上台数も着々と伸びているという。
実用化を進めるための次の課題の一つが次世代規格テレビを買ってでも、ATSC3.0放送を見たいと消費者に思わせること。NABは放送局側が積極的に4K、HDR、高音響、インタラクティブ機能を導入して消費者にアピールすることが大切だとしている。
また、MVPDs(ケーブル、衛星テレビ)のATSC3.0参入も目下の大きな課題という。現状、MVPDsはATSC1.0対応のみが義務化されていることもあり、ATSC3.0に対応しているMVPDsはないという。ATSC3.0信号に対応するためには、FCCによる新規則が整備されることをはじめMVPDsは新たに設備を整える必要があり、課題は山積だ。これらは、米国でATSC3.0を推進する機関ATSCなどでの技術開発がさらに進められる必要があると指摘している。同リポートはこちら から閲覧できる(外部サイトに遷移します)。
▶CESでも最新機種がお披露目
同報告書に先立ち、恒例の世界最大のエレクトロニクスショー「CES2025」が1月7〜10日、米ラスベガスで開かれ、今年新たにATSC3.0市場に投入される受信機やインタラクティブチャンネル、HDR放送へのサポート拡大などの新機能・サービスが紹介された。
推進機関ATSCのマデレーン・ノーランド代表は、2025年に米家電RCAが6番目のメーカーとしてATSC3.0受信機搭載の次世代テレビを販売することになったことを伝え、「6社で100モデル近い次世代テレビが米国市場で購入可能となる」と話した。さらに今年はUSB型のATSC3.0受信機が初めて発売になる。アトランタの通信機器開発企業ADTHの開発で、すでに自宅のテレビに接続されているAndroidとFire TVデバイスをATSC3.0受信可能にするもの。広く普及させるため低価格に設定するという。「多くのユーザーが、気軽に次世代放送を受信し、視聴できるようになる」とノーランド代表は期待する。
次世代テレビにインタラクティブ・ゲーム機能をもたらすのは、日本にも拠点を持つGameLoopだ。ユーザーは追加デバイスやサブスクリプションなしで、次世代テレビのGameLoopゲームチャンネルにアクセスすることで、テレビのリモートまたはスマホを使って、24時間体制でゲームを楽しむことができるようになるという。
▶ブラジルでも準備進む
また、ATSC3.0は米国だけでなく韓国、ジャマイカ、ブラジル、タイ、トリニダード・トバゴ、インド、メキシコ、カナダなど世界各国で導入が進んでいることがCESで強調された。特に、米国より効率的に導入が進んでいるのがブラジル市場。ブロードバンドが普及している米国に比べると、ブラジルはまだ娯楽と情報収集を地上テレビ放送に依存している地域が多く、ATSC3.0の需要が高いことが根底にあるとオンラインニュースサイトのtvtechは報じている。ブラジル最大のメディア企業Globoの戦略・技術担当責任者によると将来的にはアンテナをテレビに内蔵することを目指しているという。
▶FCCによる規制緩和への期待も
こうしたCESでの発表からも、ATSCの目下の課題が普及の推進であることは明らかで、冒頭で紹介したNABの報告書もそれに呼応したものとみられる。2025年はトランプ新政権下でFCCの人事が一新すると(関連記事はこちら)、テレビ業界への規制緩和が進み、ATSC3.0の普及も促されると業界関係者らは期待している。FCCが定める規則の下、次世代テレビ放送に参入する放送局は旧規格ATSC1.0とATSC3.0をサイマルで放送しなければならず、これが放送局側に大きな負担となっている。この規則を撤廃しATSC3.0のみの放送に移行し、普及を進めるべきという声は各方面からすでに上がっており、報告書にも同様の提案がみられる。