NAB Show 2023 リポート~クラウド、AI、バーチャルプロダクションに高い関心

大島 佳介
NAB Show 2023 リポート~クラウド、AI、バーチャルプロダクションに高い関心

NAB(全米放送事業者連盟)の年次大会と世界最大の放送機器展である「NAB Show」が4月15―19日、ラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)で開催されました。1923年にニューヨークで第1回大会が開かれ、今回は「CELEBRATING 100 Years of Innovation」と題した100周年の記念大会。4月18日に公表された事前登録者数は65,013人(2019年比約71%)、出展社数は1,208社(同約76%)と、コロナ禍からの"完全復活"とはなりませんでしたが、感染症対策のための入場制限などもなく、会場は多くの参加者でにぎわい、活気にあふれていました。

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<会場の様子

クラウド、AI、バーチャルプロダクション

機器展のテーマは、①クリエイト、②コネクト、③キャピタライズ、④インテリジェント・コンテント――の4つ。①はコンテンツ制作機器など、②はインターネット配信システムなど、③は収益化に関するシステムなど、④は多様なサービスやコンテンツなどに関するものです。LVCCのノースホール、セントラルホールに加え、21年に新設されたウエストホールの計3ホールのうち、主にノースホールとセントラルホールに①が、ウエストホールに②―④が、それぞれ展示されていました。

今大会も最新の放送機器や多彩なサービスが数多く展示されていましたが、なかでも高い関心が寄せられていたのが▷クラウド▷AI ▷バーチャルプロダクションです。番組制作現場におけるクラウドの活用は、近年の放送機器のIP化とともに着実に進展し、さまざまなサービスが展開されています。単なるストレージとしての利用だけではなく、撮影素材の収録・保管から編集までを、ローカル環境で処理することなくクラウド内で完結させようとするソリューションも登場しつつあり、将来的にはマスター設備のクラウド化も実現するかもしれません。

なお、日本国内では総務省の有識者会議でマスター設備のIP化やクラウド化に備え、措置すべきサイバーセキュリティ対策などが議論されているところです。

AI技術の活用も放送業界に浸透しつつあり、今大会では文字起こしやハイライト編集などをAIで自動化することによって番組制作を支援するソリューションが提案されており、一層の進化が感じられました。一方で、ChatGPTに代表される生成AIをめぐっては、急速な発展とともに多分野での活用が期待されていますが、偽情報の拡散や著作権の侵害などのリスクも指摘され、規制やルールのあり方など今後の動向が注目されます。

また、バーチャルプロダクションに関する展示にも多くの参加者が列をなしていました。バーチャルプロダクションにはさまざまな種類がありますが、そのひとつのインカメラVFXは、「LEDウォール」と呼ばれる大型のLEDディスプレイにCGなどのバーチャル映像を表示し、これを背景に現実の人物などとともに撮影する映像制作手法で、コロナ禍以降、注目を集めています。高度なカメラトラッキングシステムとリアルタイムCGレンダリングエンジンなどを組み合わせることで多彩な映像表現が可能になり、今後のさらなる進化と普及が見込まれます。

こうした技術の進展により、番組制作の幅を広げることだけにとどまらず、業務の効率化や省人化、人手不足の解消なども期待されます。

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<バーチャルプロダクション

NAB会長による年次報告

17日にメインステージで行われた開会イベントでは、NABのカーティス・ルジェット会長による年次報告が行われました。会長の年次報告はこれまで講演の形で行われていましたが、今大会は対談形式で、ユニビジョン(米国のスペイン語テレビネットワーク)でアンカーを務めるガブリエラ・テシエ氏の質問にルジェット会長が回答する形で進行しました。

ルジェット会長は、▷車載AMラジオの重要性▷地域社会におけるローカル放送の重要性▷ジャーナリストやメディアに対する攻撃への対応▷巨大IT企業との公平な競争と利益配分――について述べました。

一部の自動車メーカーがEV(電気自動車)などにAMラジオチューナーを非搭載としていることについては、「米国で毎月AMラジオを聴取しているリスナーの数は8,200万人」とのニールセンの調査結果や、ラジオ放送が緊急警報システムにおいて大きな役割を果たしていることなどをあげてその重要性や必要性を訴え、自動車業界の正しい判断を期待したい旨の言及がありました。なお、NABは3月8日、同様の声明文をウェブサイトで発表しています。こうしたことなどを受けて、米フォード・モーター社は5月23日、同社のEVにAMラジオチューナーを搭載すると発表しました。

「Future of Television Initiative」の発表

ルジェット会長の年次報告に続いてFCC(連邦通信委員会)の創設以来、初の女性委員長であるジェシカ・ローゼンウォーセル委員長が登壇し、基調講演が行われました。

ローゼンウォーセル委員長は「放送の未来について話したい」と切り出し、次世代テレビ放送規格ATSC3.0(Advanced Television Systems Committee 3.0)への円滑な移行を支援するための官民パートナーシップ「Future of Television Initiative」を発表しました。これはNABが関連業界と連携してATSC3.0への移行ロードマップの策定などに取り組むもので、▷既存受信機への対応▷移行完了に必要な要件▷規制に関する問題――などを検討するため、3つのワーキンググループを設け協議を進める模様です。

ATSC3.0への移行についてはペースがスローダウンしており、これを懸念したNABは今年1月、移行が停滞している要因を指摘したうえで、FCCに対応を要請していました。

大盛況のうちに幕を閉じたNAB Show 2023。次回は2024年4月13―17日にラスベガスで開催される予定です。

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