米CNNのトップにトンプソン氏 元BBCやNYTで辣腕 「CNN Max」も配信へ

編集広報部

米ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)はこのほど、傘下のケーブルニュース局CNNの新たなトップにマーク・トンプソン氏を抜擢すると発表した。トンプソン氏はこれまで米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)、英BBCという大手メディアで指揮を執ってきた。10月9日付で「CNNワールドワイド」の会長兼CEOに就任する。

CNNは昨年以来、経営が不安定で視聴率も大幅に低下している。トンプソン氏はその立て直しに取り組む。放送、動画配信、デジタル版事業などの経営戦略を統括し、編集方針やコンテンツ内容の全編集責任も負うという。

トンプソン氏は2012年から20年にNYTでCEOを務め、その間にデジタル版購読者数を50万人から650万人に激増させた。ポッドキャストなどにも力を入れ、NYTのデジタル事業改革を成功に導いた。NYTに移籍する前の04年から12年まではBBC会長を務め、放送局による本格的な配信サービスの先駆けとなったiPlayerの開発と導入を主導している。

視聴率低迷に歯止めかからず

CNNの経営は、親会社ワーナー・ブラザーズとディスカバリーの合併と前後して一気にぐらつき始めた。22年2月、両社の合併直前にCNNのジェフ・ザッカーCEO(当時)が突如辞任。社内での不倫発覚が表向きの理由だったが、実際にはディスカバリーとの合併を控え政治的な圧力がかかったとの憶測も飛び交った。WBDに合併後、CNNの新CEOにクリス・リクト氏が就任すると、報道方針がそれまでの中道左派寄りから右派寄りにシフトした。結果、急激に視聴者離れが進み、以来視聴率は低迷を続けている。そして今年6月には、そのリクト氏が業績不振を理由に解雇された。

ドナルド・トランプ前大統領の起訴をめぐる一連の報道の視聴者数を見ると、CNNの低迷ぶりは一目瞭然だ。ライバル局MSNBCは積極的な報道姿勢でプライムタイム視聴率を大きく伸ばし、常にダントツの視聴者数だった保守系のFOX Newsをもしのぐほどになった。アドウィーク誌やニールセンのデータをもとに米オンラインニュースAxiosが作成した視聴者数グラフを見ると、8月のジョージア州における起訴報道のプライムタイム視聴者数はMSNBCが約300万人と躍進。FOXニュースが200万人超、CNNは100万人に満たなかった。

「CNN Max」を9月末にスタート

CNNは配信事業でも他社に遅れをとっている。ジェフ・ザッカーの指揮下で進められていた新配信サービス「CNN+」は22年3月末、ディスカバリーとの合併直前に強引に始まったが、新体制となったWBDが「資金がかかり過ぎる」との理由でわずか3週間後に閉鎖している。その後、CNNの配信版は立ち消えになったままだった。

しかし、コードカットが進むなか、8月末にWBDはついに同社の配信サービス「Max」でCNNのライブ配信版「CNN Max」を9月27日から開始すると発表した。ケーブル事業者との契約があるためケーブルニュースのコンテンツをそのまま配信で流すことはできず、CNN Max用に毎日4時間のオリジナルニュースを制作・ライブ配信しなければならない。ただし、そのための人材を確保する資金がなく、現役のCNNキャスターらが駆り出されるとのことだ。CNN+が企画番組中心だったのに対し、今回のCNN Maxはニュース報道中心になるという。

トンプソン氏はこの新事業の指揮も執ることになり、キャスターらとの労使交渉も含めその手腕の見せどころとなりそうだ。

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