記者やディレクターなど報道の実務者のスキル向上とよりよい報道の実現を目指す「報道実務家フォーラム2023」が4月28―30日の3日間、早稲田大学国際会議場で開かれた。報道実務家フォーラムと早稲田大大学院政治学研究科ジャーナリズムコースの主催で、2017年から毎年開催している。今年は47の講演をリアルとオンラインのハイブリッド形式で実施した。
民放onlineは3つの講演を取材。今回は「TBS調査報道ユニットとNEWS DIG好調の秘密とは」と題した講演を紹介する。このほか「旧統一教会と地元政治の関係を追求する富山・チューリップテレビ」「"タブーなき"選挙報道を考えよう~本当に伝えるべきこと」の講演については後日掲載する。
TBSテレビの情報提供窓口「TBSインサイダーズ」とニュースサイト「TBS NEWS DIG Powered by JNN」について担当者が講演した。
はじめに「TBSインサイダーズ」について説明があった。2021年3月に開設し、不正・不祥事や事件・事故など、取材のきっかけになる情報や資料を受けつける。7月には専従で取材するチーム「調査報道ユニット」を作り、内部告発や情報提供を活かしながらスクープをあげている。情報提供は1日に数百件に上るという。
調査報道ユニットサブキャップを務める神保圭作氏(=冒頭写真 左)は、ツールとして活きた事例として『news23』で放送した「GoToトラベル不正受給」のスクープを紹介。GoToトラベル事務局から身に覚えのないホテルへの69連泊を確認する手紙が届いたという男性を取材したところから始まった。この時点では全体像の把握はできなかったが、「分かったこと」「分からなかったこと」を明示したうえでオンエア。放送後に「TBSインサイダーズ」へ新たな情報提供があり、続報を重ね、本丸に近づいていったという。
「①関係者への取材、②オンエア・記事化、③情報提供――という"サイクル"ができた」と神保氏。そのうえで、「TBSインサイダーズはツールにすぎない。大切なのは記者の問題意識だ」と語った。会場からの「ほかのメディアにも同じ情報提供がされている可能性は気にするか」との問いに、神保氏は「確認はするが、必要と思うものなら取材する。他社と一緒に報道することで世の中を変えられる」と答えた。
次に、2022年4月からスタートし、同年7月には1.2億ページビューを達成した「TBS NEWS DIG Powered by JNN」について、立ち上げのシステム開発チーフを務めた南部諒生氏(=冒頭写真 中央)と、調整や編集長業務にあたる河村健介氏(=冒頭写真 右)がこれまでの成果を紹介した。
JNNの存在感を高めることと、マネタイズを意識したという南部氏。「多くの人たちに届いた結果が収益であり、収益化できないのは自分たちの報道が届いていないことになる」と話した。また、同氏は立ち上げにあたり社外の意見も重視し、「外部から客観的に評価してもらうことは大切。自分たちがどうありたいかとともに、外からどう見えているかを意識した。迷ったらユーザー目線で考える」と語った。
河村氏からはコンテンツの届け方の工夫が語られた。ユーザーとの最初のタッチポイントとしてタイトルとサムネイルを挙げ、「記事の魅力を追求し、タイトルに昇華することが必要だ」とした。最後に「コンテンツを届けて見てもらうための努力が今までのテレビには足りていなかった。デジタルの世界で伝えていくためのノウハウを学ぶ必要がある」とし、「そのノウハウは放送にも活かせる」と締めた。
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なお、過去に民放onlineでは「ローカル局から見る『TBS NEWS DIG Powered by JNN』 報道現場や放送に与えた影響」と題した特集を組んでいます。記事はこちらから。