テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星12社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。
今回は「長寿番組」を特集。地上テレビ127社に行ったアンケートの回答の一部を3回(①、②は掲載済み)にわたって紹介していきます。なお、回答のあった番組の一覧はこちらからご覧いただけます。
※長寿番組は、2023年中に放送20年以上となる自社制作番組と定義
※レギュラー番組(毎日―月1回)に限定し、長年継続する特番などは除く
※タイトル変更やリニューアルがあっても、制作した社で同一番組と見なすものは含む
※放送時間は、制作した社の現在のもの
地元を旅しよう
テレビ岩手は紀行番組『夢・見る・ピノキオ』を1997年にスタート、2022年4月から放送時間を夜から夕方に変更して『ピノキオ・サンセット』(日、16・55―17・25)とリニューアルした。地元のグルメや文化の情報を全編VTRで届けている。主に洋楽のBGMに乗せ、ナレーションのみで構成。美しい映像と洋楽の名曲を使った、キー局にもないような番組を作ろうと始まった。澤藤寛明プロデューサーは「当時、フジテレビの『カノッサの屈辱』(1990年4月―91年3月)や『ワーズワースの庭で』(93年4月―94年3月)などの知的教養番組が人気だったため、趣味に振り切った番組にした」と経緯を振り返る。
長寿の秘訣を「テイストを大きく変えなかったこと」と澤藤氏。使用する楽曲にこだわっており、専用のライブラリーにある楽曲を中心に使用する。また、美しい映像を撮ることを心がけ、開始当時からライティングに力を入れていたという。最近では、ドローンやアクションカメラなどを用い、新しい映像表現にも取り組んでいる。
日曜深夜から夕方への昨年の枠移動の一因は、メインターゲットだった40、50代が歳を重ね、深夜の視聴が難しくなったこと。賛否はあるが、高齢者から好評で視聴率にも表れているという。オープニング曲を山下達郎さんの「夜の翼」から竹内まりやさんの「幸せのものさし」に変更し、これまでのテイストを維持しつつ、少し明るい雰囲気とした。エンディングは切なさを表現するため、大貫妙子さんの「海と少年」に。澤藤氏は「良い音楽と、美しい映像、そしてちょっぴりのこだわりを大切に、番組を続けていきたい」とコメントした。
<地元の工芸品を取り上げた放送回でリニューアル後最高視聴率>
テレビ北海道『旅コミ北海道~じゃらん de GO!』(土、18・30―19・00)を1997年6月から放送している。旅行専門誌『じゃらん』の北海道版『北海道じゃらん』の購読者層をメインターゲットに、旬の観光情報を道内に届けることを目的にスタート。同誌編集部の企画協力のもと、同誌の特集記事から主なテーマを決め、それに沿ったエリアから話題の飲食店やおすすめスポットを紹介している。テレビ北海道の制作担当者は「企画や制作など合同で行うため、放送局や制作会社にはない目線で番組づくりができる」と手応えを語る。
現在はYouTubeでの番組配信のほか、SNSで収録のオフショットを投稿するなど、時流に沿って番組の認知拡大を目指している。また、同社はコロナ禍の2020年4月から、道内の商店や企業、自治体などのさまざまな取り組みを紹介する取り組み「ACT for HOKKAIDO」を展開しており、その一環で同番組でも同年6月からキャンペーン「#また旅へ」を実施。SNSなどを通じて、視聴者から旅の思い出や道内のいまを募った。担当者は今後について「一人、友人、家族など、どんな形でも楽しめる旅を変わらず提案していきたい」と展望した。
<『旅コミ北海道~じゃらん de GO!』>
定番の強さとトレンドの魅力
毎日放送(MBS)は、なんばグランド花月で公演している「吉本新喜劇」の中継番組『よしもと新喜劇』(土、12・54―13・54)を放送している。テレビ開局にあたりスタジオ不足に悩んだMBSは、戦災で失った寄席の再開およびテレビ進出を目指していた吉本興業と提携。テレビ開局日である1959年3月1日、吉本興業が「うめだ花月劇場」をオープンし、MBSは同劇場の中継を独占して行うことに。『寄席中継』として始まり、1989年に現在の番組名となった。
約40年間、土曜昼に放送しており、関西人にとってなくてはならない"文化"として定着している。番組を担当する総合編成局総合編成部の小竹聡美氏は「大阪の『お茶の間文化』の一翼を担っている自負がある」とコメント。世の中のトレンドや社会情勢を取り入れながら、「定番のギャグ」と「テンポの良いドタバタ劇」を全世代に楽しんでもらうという姿勢は開始当初から変わらない。
劇団発足60周年を迎えた2019年3月には、劇団に在籍する約120人の全座員が出演する芝居を披露した。小竹氏は「長い歴史があるからこそできる特別な番組」とし、今後について「100周年を目指し、新たな挑戦を続けながら、関西だけでなく全国各地に『よしもと新喜劇』の文化を広げていきたい」と意気込む。
<『よしもと新喜劇』2023年7月29日放送回>
「同一ビデオジョッキーによる最も長寿な音楽番組」としてギネス世界記録に認定されているテレビ神奈川『billboard Top40』(土、22・30―23・25)は、1983年10月にスタート。初回放送からビデオジョッキーを務めている中村真理さんが、アメリカの音楽業界誌「ビルボード」のシングル総合チャートの上位40曲を紹介する。楽曲と併せ、ヒットの背景などをアメリカの状況を踏まえながら説明。視聴者からは中村さんの解説やアーティストのゴシップ情報が好評となっている。
当時の音楽番組のプロデューサーがレコード会社にビルボードチャート使用の契約について聞いたことがきっかけ。当時、ビルボードチャートを扱うテレビ番組はなかったなか、番組化したという。担当者は長寿の要因として「より良い洋楽情報を視聴者に届けるやりがい」「制作部以外にも、番組への協力を惜しまないスタッフが社内にたくさんいたこと」を挙げる。
2022年の大晦日には放送2000回記念特番を放送。視聴者からメッセージを募ったところ、さまざまな年齢層から「80年代から見ている」「親子で楽しんでいる」といった声が寄せられたという。また、1000回記念の放送は、ジャスティン・ティンバーレイクから番組へコメントをもらい、中村さんの印象深い放送回だという。担当者は「大きな変更はせず、今までと同じように、なじみの番組構成で続けていきたい」と語る。
<ギネス世界記録公式認定証を持つ中村真理さん>
信頼関係とリスペクト
テレビ新広島は『釣りごろつられごろ』(土、11・20―11・35)を1977年10月から46年間にわたり放送している。瀬戸内海の豊かな海と四季折々の魚を番組にしたいとの思いから開局して間もなくスタートした。タイトルロゴと音楽は当初から変更していない。
代々受け継がれている制作姿勢は「1週間に1回、ゲスト(番組に出演する釣り人たち)をヒーローにしてあげること」。釣りをする格好いい姿を映すことをこころがけているという。また、ほかの釣り番組がナレーションで状況説明を行うなか、同番組では"釣りごろナビゲーター"(同社アナウンサー)と釣り人(または船長)が映像を見ながらトークし、当日の状況を伝えている。
釣り人になるべく自然体で楽しんでもらうため、コミュニケーションを取りながら距離をつめ、釣り方のポイントなどを会話の中で聞き出しているとのこと。また、金尾和弘プロデューサーは「釣り人だけでなく、遊漁船の船長との信頼関係をつくることにも気をつけている」と語る。こうして現場で海の状況などの情報を集め、最適な画づくりを考え、撮影に挑んでいるという。金尾氏は「『一度は出演してみたかった』との声が多く、大変ありがたい」とし、「これからも『釣りごろつられごろ』らしさを守りつつ、常に釣りファンの関心を意識し、さらに愛される番組をつくり続けたい」と語る。
<『釣りごろつられごろ』>
静岡朝日テレビは1993年のJリーグ開幕にあわせ『Viva Jリーグ』を開始、1996年4月に『スポーツパラダイス』(金、23・15―23・45)としてバージョンアップし、サッカーを中心としたスポーツ情報を伝え続けている。担当者は長寿の秘訣を「静岡のサッカーやスポーツの文化を盛り上げたいという思いを持ち続けてきたこと」としている。開始からしばらく、ジュビロ磐田や清水エスパルスがJ1で優勝を争うなど、話題は尽きなかった。その後両チームの結果は振るわず、静岡サッカー全体が落ち込んでしまうなか、県民に関心を持ってもらえるように試合の見せ方や特集づくりを工夫したという。
現在はJ2に3クラブ、J3に1クラブ。開始当初から変わらず各クラブに担当ディレクターを付け、視聴者に詳しく伝えられる体制を取っている。また、番組スポンサーのダイドードリンコの提供で、自治体と連携したCM「アナRUN+」に取り組んでいる。県内35市町突破を目指し、アナウンサーが各地を走り抜ける。
スポーツの魅力を伝えるうえで、「選手へのリスペクトと、クラブと選手を応援する気持ちを大切にしてきた」と担当者。「『サッカー王国静岡』の復活が叫ばれるなか、より多くの人たちがサッカーに興味を持ち、応援してもらうことが番組の使命だ。より分かりやすく、楽しく魅力を伝えていきたい」と展望する。
<番組MCを務める佐野伶莉アナウンサー㊧、槙野智章さん>