米国でテレビの医薬品CMの表現規制を強化 広告収入に大きな影響か

編集広報部
米国でテレビの医薬品CMの表現規制を強化 広告収入に大きな影響か

米トランプ政権が9月9日、製薬メーカーのテレビCMの表現規制を強化する方針を打ち出した。トランプ大統領から保健福祉省(HHS)と食品医薬品局(FDA)のトップに宛てた「覚書」のタイトルは「消費者向け処方薬広告における誤解を招く表現への対応(Addressing Misleading Direct-To-Consumer Prescription Drug Advertisements)」。処方箋薬¹ をテレビで広告する際、副作用や服用リスクに関する情報をこれまでより詳しく明確に表示することを義務づけるよう、HHSとFDAに指示した。

これを受け、HHSとFDAは直ちにメーカーに誤解を招きかねない広告の差し止め勧告と数千通に及ぶ警告書の送付を開始。さらに、処方薬や生物製剤の広告で「副作用や薬の飲み合わせなどの禁忌事項に関する情報を簡潔に要約して広告内に明示する」ことを義務づける新たなルール改正を進めると明らかにしている。

「広告表現の是正」と「薬価の抑制」、さらに「製薬メーカーの透明性向上と説明責任の明確化」という目的は消費者に有益と思われる。しかし、かねてから製薬業界に厳しい目を向けてきたのロバート・F・ケネディ・ジュニアHHS長官² による「業界への宣戦布告」とも受けとめられており、メディアや広告関係者の間では警戒感が強まっている。

米国ではビル・クリントン大統領政権下の1997年、すべての副作用を広告内で列挙しなければならなかったそれまでから一転、詳しい内容はメーカーの連絡先やウェブサイトなどへの誘導表示で代替できるよう規制が緩和された。その結果、当時1%未満だった製薬メーカーのテレビ広告シェアは、現在テレビ広告全体の9%にまで拡大しているとされる。特に夜のニュース番組で依存度が高く、2025年前半のニュース番組中のCMの24%が製薬メーカーだったとの調査結果もある。

今後、すべての副作用と服用リスクを広告内で明示することを再び求められると、15秒、30秒、60秒を中心とするCM枠では収容しきれない。あるアナリストは「場合によって4分に及ぶ可能性もあり、既存の広告フォーマットでは事実上不可能」と指摘。その結果、医薬品の広告出稿が減れば、放送局の売上が直撃を受けるのは避けられず、「数億㌦規模の減収につながる」との見方もある。

さらにFDAはソーシャルメディアでの広告やインフルエンサーの影響力も問題視しており、監視と規制の対象が拡大すればメディア全体の広告慣行にも影響が及ぶ。FDAの今後の施策次第では米国の広告ビジネス全体が新たな転換点を迎える可能性が高いとメディアは注視している。


¹ 医師が診断に基づいて発行する処方箋に従って薬剤師が調整して提供する医薬品。

² ジョン・F・ケネディ元大統領のおい。2024年の大統領選に無所属で立候補したが、途中で離脱しトランプ氏支持に回った。トランプ大統領の指名で2025年2月13日にHHS長官に就任。反ワクチン団体の創設者としても知られる。

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