米CBSの報道番組『60ミニッツ』の報道内容をめぐってドナルド・トランプ大統領が親会社のパラマウント・グローバルに損害賠償を求めていた訴訟(既報)でパラマウントは7月1日、トランプ大統領に1,600万㌦(約23億5,000万円)を支払うことで和解した。和解金の一部は訴訟費用に充てられ、残りの大半は将来トランプ氏が設立する大統領図書館に寄付されるという。合意にはCBSからの謝罪は含まれていないが、今後『60ミニッツ』が大統領候補者にインタビューを行う際、放送後に国家安全保障上の内容を除く全文を書き起こして公開することとされた。
背景にはパラマウントとスカイダンス・メディアとの間で進行中の合併交渉があったとみられる。合併には米連邦通信委員会(FCC)の承認が必要で、「政権に取り入るための戦略的判断」との報道もある。それだけに、CBSのニュース部門と『60ミニッツ』の内部からは強い批判が湧き上がっているとも報じられている。
『60ミニッツ』は1968年の放送開始以来、政権や権力者への検証報道を続け、米報道界における"良心"とも言える存在だ。あるベテラン記者は「謝罪が含まれなかったことがせめてもの救いだが、そもそも謝るべきことなど何もない」とし、「伝統に対する屈辱」と語っている。すでに今年4月には当時の番組エグゼクティブ・プロデューサーが、5月には当時のCBSニュースCEOも辞任している(既報)。
業界団体や研究者からも批判が相次いでいる。コロンビア大学に拠点を置く非営利団体「ナイト修正第1条研究所」は「パラマウントの法的リスクは極めて小さかった。法廷で闘えば勝てたはず」と抗議。国際ペンクラブの米国支部も「パラマウントは政治圧力に屈し、経済的利益を優先して迎合を選んだ」と批判している。
FCCのアナ・ゴメス委員(民主党)も「言論の自由にとって極めて危険な前例となる。報道の独立を重んじるすべての人々にとっての警鐘だ」と声明を出し、パラマウントとスカイダンスの合併審査について「密室ではなく、FCCのフルメンバーによる公式な審議と採決が必須だ」と訴えている。議会からの反発も強い。民主党のエド・マーキー、エリザベス・ウォーレン、バーニー・サンダースの各上院議員は、今回の支払いを「実質的な賄賂」と指摘し、議会による調査や刑事責任の追及も辞さない構えをみせている。