米メディア大手のパラマウント・グローバルとスカイダンスが8月に合併し、新会社「Paramount Skydance Corporation」(以下、パラマウント)が発足した(既報)。傘下のCBSニュースは新体制下で再編に直面しており、報道姿勢や組織運営のあり方をめぐって注目を集めている。
▶経営再編と人員削減の不安
新経営陣はすでに20億㌦(約3,000億円)の経費節減を掲げており、全部門で2,000〜3,000人規模の削減が11月初めまでに実施されると8月下旬に報じられた。CBSニュースも対象となる可能性が高い。
合併直前の7月、CBSは長寿の深夜トーク番組『The Late Show with Stephen Colbert』を2026年5月に終了すると発表した。ホストのスティーブン・コルベアは『60ミニッツ』をめぐる旧パラマウントとトランプ大統領の和解(後述)を番組内で「巨額な賄賂だ」と述べるなど、大統領やCBSにも歯に衣着せぬ発言をしていた。このため、政権の圧力に屈したのではないかとの見方も広がり、ABCのジミー・キンメルやNBCのジミー・ファロンなどライバル局の深夜番組ホストまで巻き込んで話題を呼んだ。CBS側はあくまでも「深夜番組をめぐる財務的な理由」としている。ちなみに、9月14日の第77回エミー賞で『The Late Show with Stephen Colbert』が最優秀トーク番組賞を受賞している。
▶編集ルールの変更と独立性への疑念
報道姿勢をめぐる大きな動きもあった。CBSは9月5日、日曜日の長寿政治番組『Face the Nation』で政治家や閣僚へのインタビューを生または収録して放送する場合、一切の編集を行わず、完全版を放送すると発表したのだ。8月3日放送のクリスティ・ノーム国土安全保障長官インタビューの編集に対して政府から「重要なコメントを省略した意図的な編集だ」との批判を受けた直後の措置だ。
放送時間やわかりやすさの観点から同番組はこれまでごく普通に編集が行われていたが、今後は国家安全保障上の理由などを除いて編集を禁止するという。2024年10月の『60ミニッツ』でのカマラ・ハリス副大統領へのインタビュー編集をめぐって親会社の旧パラマウントはトランプ大統領から提訴され、この夏に1,600万㌦(約23億5,000万円)を支払うことで和解している(既報)。
▶オンブズマン任命と編集方針の変化
9月8日には、CBSニュースのオンブズマンにケネス・ワインスタイン氏が任命された。オンブズマンは旧パラマントがスカイダンスとの合併にあたってFCC(連邦通信委員会)に設置を約束したもの。ワインスタイン氏はシンクタンク「ハドソン研究所」の元CEOで、政府が所管する国際放送VOA(Voice of America)の上部組織である米グローバルメディア局(USAGM)理事長を務めた。一方、保守系でトランプ大統領の支持者としても知られ、現場の記者からは「政権寄りの立場ではないのか」との懸念が出ている。
パラマウント側は「ジャーナリズムの誠実性と透明性を守る独立した内部代弁者」と説明するが、各メディアからは編集の独立性が損なわれるのではないかとの懸念も強い。また、パラマウントは保守系オンラインメディア「The Free Press」を買収し、創設者のバリ・ワイスにCBSニュースの編集権限を与える動きもあるとの報道もある。
▶看板番組の迷走
CBSニュースの看板番組『Evening News』も揺れている。2人のキャスターが並んでニュースを伝える現行の番組フォーマット(平日18:30~19:00)は視聴者数低迷が続いており、8月初旬の平均視聴者数は374万人。ライバル番組のABC『World News Tonight」(689万人)と、NBC『Nightly News』(535万人)に大きく水をあけられた(オンラインメディア「Variety」)。
速報性を強化するためアンカーを現場に派遣し、番組の冒頭で即時性の高いニュースを伝える方針を検討している。また、番組を率いてきたエグゼクティブ・プロデューサーが退任し、『60ミニッツ』に復帰することも決まっており、後任人事を含めた再調整が進む可能性もある。
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巨額のコスト削減、保守系人材の登用、報道現場への介入――いずれもパラマウントの経営戦略と政権との関係性を背景にしているとみられる。それだけに、CBSニュースが報道機関としてどれだけ独立性を維持できるのか、看板番組の信頼を維持し、視聴者に受け入れられるのかを米国のジャーナリズム全体が注視している。