民主党主導で動き始めたFCC

鍛治 利也
民主党主導で動き始めたFCC

5人目のFCC(米連邦通信委員会)委員がようやく決まった。これにより民主党側委員が3人と過半数を占めることとなり、共和党と意見が対立する重要案件の審議を進めることができるようになった。定例会議の議題は委員長が決定し、5人の委員による票決で審議結果が決まる。従ってほとんどの議題は、過半数を占める政権与党側の意見が通ることになる。ローゼンウォーセルFCC委員長は民主党側なので、本来であれば民主党寄りの政策が進められていて然るべきだが、約2年8カ月もの間、民主党2人対共和党2人の同数が続いていたため重要案件は審議できなかったのである。

このように長期間にわたりFCCが1人欠員のままの状態が続いたのは極めて異例のことであり、それには二つの原因がある。バイデン政権の発足に伴い、パイ前委員長(共和党)は慣例により約5カ月間の任期を残したまま辞任した。その後、約10カ月間、後任候補者を指名しなかった。これが一つ目の原因である。二つ目は、当初から上院での承認手続きが難航すると言われていた、ギジ・ソーン氏を後任候補者に指名し、同氏の承認に固執し過ぎたことである。バイデン大統領から3回も指名されたにもかかわらず上院での承認が得られなかったため、指名辞退に追い込まれた。

次に後任候補者として指名されたのがアナ・ゴメス氏。前職は、国務省サイバースペース・デジタル政策局国際情報通信政策シニアアドバイザーで、1994年から2006年までFCCで勤務。2000年にはケナード元委員長の法律顧問を務めた経験がある弁護士である。9月7日に上院本会議で承認されたことにより民主党側委員が3人となったFCCが、いよいよ本格的に始動し始めた。

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バイデン大統領の公約を果たすため、FCCはこれまで手を付けることができなかった「ネット中立性規則」の再制定に向けて早速動き出した。オバマ政権民主党時代の2015年に、インターネットを電気、ガス、水道等と同様に平等に取り扱うべきインフラと位置付け、インターネットサービスプロバイダーによる特定コンテンツの閲覧制限や、通信速度のコントロールを禁止した。2017年にパイ前FCC委員長共和党)がこの規則を撤廃したのだが、これを復活させようとしている。

FCCは、9月28日にオープンインターネットの保護と安全に関する規則案の概要を発表し、10月19日開催の定例会議において、同公開草案を決定するとともに意見募集を開始した。1214日まで意見を受け付け、提出された意見に対する意見を年明け1月17日まで受け付ける。早ければ来春頃には意見募集結果とそれに対するFCCの見解が発表されるだろう。

FCCが速やかに着手しなければならないもう一つの重要案件は、米放送業界の最大の関心事であるメディア所有規則の見直しである。一定のルールの下での自由競争を認めようとする民主党と、自由競争の結果、問題があった点のみルール化しようとする共和党の理念が激しく対立するため「解決不能」と言われているが、放送会社の合併や再編につながるなど放送業界に極めて大きな影響を及ぼすものである。

歴史を振り返ってみれば、FCCは共和党主導体制になると規制緩和を打ち出し、ことごとく控訴裁で敗訴してきた。2017年にパイ前委員長が断行した大幅な規制緩和も、2019年に控訴裁で敗訴してしまった。しかし、2021年に最高裁はこの規制緩和策を差し止めた控訴裁を厳しく批判し、控訴裁判決を無効とした。これは大きなターニングポイントだと言える。

メディア所有規則は1996年に成立した電気通信法により4年ごとのレビュー義務が課されている。ローカリズム、メディア間競争、多様な意見や見解、多様なコンテンツ、経営者の多様化の促進を目的に制定された規則であるため、公共の利益に照らしてこの制定目的にマッチしているか否かを、4年に一度必ずレビューしなければならない。その結果、寄与しなくなった条文の廃止または修正が必須となっているのだが、この法的義務を果たしていない。最後に完了したのは2014年レビューであり、それ以降は頓挫しており、ローゼンウォーセルFCC委員長はこの違法状況の解消に迫られている。

FCC202212月、2018年レビューが完了していないにもかかわらず、2022年レビュー手続きの開始とメディア所有規則に関する意見募集の開始を発表した。この行政手続きに強く反対していたNAB(全米放送事業者連盟)は、FCC2018年レビューを先に完了すべきだと、控訴裁に訴えた。FCCが法定義務を課されたレビューを完了できなかったのは2度目である。2010年レビューの時も完了できずに2014年レビューと統合した。当時も控訴裁から法的義務を果たすよう苦言を呈されており、議会からも強い不満を示されている。

控訴裁は9月29日、NABの訴えを認めFCCに対して2018年レビューを90日以内に完了するよう命じた。従って2022年レビューを行い、その結果を踏まえたメディア所有規則の改正案が公表されるのはまだ先のことになるだろう。

大手放送局所有会社のNexstar社とAllen Media Groupが規模拡大に向けて、ディズニーによるABC直営局の売却計画に強い関心を示しており、この動きはメディア所有規則のレビューの進捗状況に大きな影響を受けることになるだろう。レビューが完了する前に、このような大型売却計画が実際に進展した場合、FCCはどのような反応を示すのか......。

無議決権優先株の譲渡やCox社を交えた複雑な売却計画だったとはいえ、Standard General社によるTegna社の買収計画は、今年5月、FCCによる行政判断等により破談に追い込まれた。1934年通信法309条で認められた審査とはいえ、実質的にFCCの事務方による措置であると、共和党サイドからは強い批判が出ている。

本来であれば、4年ごとのレビューをきちんと完了したうえで、メディア所有規則を改正しなければならない。それには、メディア業界の構図は大きく変わったことを正しく認識することが必要だ。インターネット配信事業者の台頭により、放送局間の競合やパイの奪い合いではとっくになくなっている。ローゼンウォーセル委員長の認識に注目したい。

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