前回から少し間が空きましたが、民放連研究所が本年3月に実施したネット配信へのニーズに関する調査結果の最終回です。今回のテーマは"NHKプラス"へのニーズです。
調査の概要を確認
このシリーズの第1回(6月7日掲載)で調査の概要をお示ししましたが、確認のため、再びお示ししておきます。今回を含め過去4回、ほぼ同様の設計で実施しています。なお、回答者の性年齢構成は日本全体とほぼ同一ですので、性年齢構成によるウェイトバック集計を行う必要はありませんが、インターネット調査固有のバイアスがあることは再び明記しておきます。
8.6%が利用中、認知率は約4割で横ばい
調査では過去4回とも、「NHKは2020年3月より、全てではありませんが大部分の『NHK総合』と『Eテレ(教育放送)』の放送を、インターネット上での同時配信と基本的に過去1週間の番組の見逃し視聴サービスを無料で提供する"NHKプラス"を開始しました。あなたはこのサービスのことをご存知でしたか」と聞いています。
過去4回の調査のNHKプラスの認知度、利用状況の推移を図表1にお示しします。2023年3月下旬時点の利用率は8.6%です。NHK放送文化研究所の調査(「全国放送サービス接触動向調査」2022年6月)によれば22年6月時点のNHKプラスの利用率は約5%です。NHK文研の調査は全国7歳以上が対象(郵送法)で、民放連研究所のインターネット調査は全国15~69歳ですから調査対象、調査法と調査時期に違いはありますが、こちらの方が水準は高いと思われます。調査時期がNHK調査の9カ月後であることよりも、調査対象がネットユーザー限定であることが主な理由と考えられます。利用率は毎年2%ポイント程度ずつ増加しています。23年調査の認知度(聞いたことがある人)は39%と昨年とほぼ同程度です。
認知度、利用率ともに極めて緩やかに増えているという感じでしょうか。少なくとも減ってはいませんが、以前ご紹介した他のネット配信サービスのように大きく伸びているわけではありません。
<図表1. NHKプラスの認知度・利用率>
NHKプラスの利用者は50代以上が明確に多い
図表2は、2023年調査における、現在NHKプラスを利用している人(6,188人中530人)の性年齢構成です。参考までに以前ご紹介した民放の見逃し配信サービスの利用経験者(同2,886人)と調査回答者全体の性年齢構成(回答者割付)を付記しました。民放の見逃し配信サービス利用経験者の性年齢構成は、回答者全体(=日本全体)との差異があまりなかったのですが、20~30代女性の利用経験者の構成比が、回答者全体よりもやや多く、逆に60代男性はやや少なく、男女比では女性の方が多くなっていました。一方、NHKプラスは回答者全体との差異が比較的大きく、傾向としては民放見逃し配信とほぼ真逆です。60代男女と50代女性はかなり多く、30代男女と20代女性はかなり少なく、20代男性、40代女性もやや少なく、男女比では男性の方がやや多くなっています。
NHKプラスの利用者は、ネット配信であるにもかかわらず、割合ハッキリと50代以上が多いと言えます。つまり、放送でもNHKをよく見る人たちが多くなっていると推測されます。
<図表2. NHKプラス利用者の性年齢構成>
利用意向は20%程度の低空飛行を継続
図表3は、未利用者に対して、NHKプラスを利用してみたいかどうかを聞いた設問の調査結果です。設問では、IDが取得されておらず右下に注意メッセージが表示されている画面の画像を提示して、IDの取得条件(放送の受信契約が必要なこと)と取得法を明示した上で、NHKプラスの利用意向を聞きました。
ご覧のように、"利用してみたい"との回答は21年以降、ほぼ横ばいです。"利用したいとは思わない"との回答は約8割でこれもあまり変化していません。少なくとも21年以降は、利用意向に大きな変化は起こっていないと考えるべきでしょう。率直に言って、低空飛行が続いているという印象です。
<図表3. NHKプラス利用意向>
受信料未払い、テレビがない人の利用意向は7%程度
次に、同じ設問の2023年調査について、NHK受信料支払いの有無、およびテレビ受像機所有の有無別の集計結果を見てみます。まず受信料支払いの有無別では(図表4)、受信料を払っている世帯の構成員の利用意向は、全体よりもやや高い程度です。払っていない世帯と払っているかどうかわからない世帯については、利用意向はどちらも7%未満しかありません。
テレビ受像機所有の有無別では(図表5)、現在居住しているところにテレビ受像機(放送用チューナーを搭載したテレビに限定。車載テレビ、ワンセグ、PCを除く)が1台もない人では、受信料未払い・不明世帯の構成員とほぼ同じ7%程度の利用意向です。どちらの場合も受信契約がないため、現状の制度ではライブ視聴の場合、右下のメッセージが消えず、見逃し視聴はできないことを設問で理解してもらった(という前提の)上での回答ですので、利用意向がかなり低くなるのは当然ではありますが、全体とここまでの格差があるとは予想していませんでした。
<図表4. NHKプラス利用意向の受信契約有無別集計>
<図表5. NHKプラス利用意向のテレビ受像機所有の有無別集計>
NHKプラスと民放同時・見逃し配信の
利用形態別意向はほぼ同じ
図表6は、以前ご紹介した地上波民放の同時・見逃し配信の利用形態別利用意向と同じ設問のNHKプラス版です。回答の傾向はほとんど同じです。"自宅のメインのテレビ"、"テレビがない部屋で"、"リアルタイムと見逃しの組み合わせ"が多くなっており、"もっぱらリアルタイムで視聴したい"は"もっぱら見逃し視聴で利用したい"よりも低くなっています("そう思う"、"ややそう思う"の合計)。唯一と言ってよい違いは、"自宅のテレビがない部屋で"が、民放の同時・見逃し配信68.9%に対し、NHKプラスは59.5%とやや低いことです。これは、回答者の性年齢構成の違いに起因するものかもしれません。
<図表6. NHKプラスの利用形態の意向>
NHKプラスへの支払い意向は?
最後に、受信料を払っていなくても、また、テレビを持っていなくても、NHKプラスをお金を払えば利用できるようになれば、お金を払って見てくれる人はどれほどいるのでしょうか? それについては、今回(2023年)の調査から加えてみました。調査結果は図表7のとおりです。
<図表7. NHKプラスへの支払い意向>
受信料を払っている世帯は無料で利用できますので、母数は受信料を払っていない人だけです(6,188人中985人)。このように、単純に支払ってもいい価格だけ聞けば、かなり低い金額に回答が集中するのは避けられません。しかしこの場合、支払ってもよい金額以前の問題として、"完全に無料でも利用しない"が6割以上もあり、"かなりの少額でも有料なら利用しない"と合わせると9割を超えました。受信料相当額かそれ以上払ってもよいという人は985人中3人でした。
テレビを持たない人で、NHKプラスに
お金を払ってもよいと考える人は......
ところで、受信料未払い者にも、テレビを持つ人と持たない人がいます。今回の調査では、NHK受信料未払い世帯の構成員のうち、現在、テレビが1台もないところに居住している人は34%でした。では、テレビを持たない人のNHKプラスへの支払い意向はどうなのでしょうか? 結果を図表8にお示しします。
<図表8. NHKプラスへの支払い意向:テレビ保有の有無別>
テレビがない人に限定すれば、"完全に無料でも利用しない"が7割以上あり、"かなりの少額でも有料なら利用しない"と合わせると、約95%に達しました。"無料でも利用しない" "かなりの少額でも利用しない"ともに、同じ受信料未払い世帯の人でも、テレビがある人とない人とでは差異があると言ってよい水準です。
民放連研究所が本年3月に実施したネット配信に関する調査のご紹介は、今回でおしまいです。近年世界的に、テレビ番組は空中波やケーブルでの視聴時間が減り、デジタルプラットフォームでの視聴時間が増える傾向が続いています。日本は、その傾向が他国よりも比較的緩やかだったのですが、コロナ禍以降のここ2、3年で急速に、テレビを見る人のリアルタイム視聴時間が減少し、デジタルプラットフォームでの見逃し配信やオンデマンド配信視聴が増える傾向が強まっています。将来の放送のビジネスモデルを考えるに当たって、今後とも、この分野のリサーチは重要です。