YouTubeがあればテレビはいらない⁉ 「データが語る放送のはなし」㉗

木村 幹夫
YouTubeがあればテレビはいらない⁉ 「データが語る放送のはなし」㉗

さて、今回から何回かに分けて、民放連研究所が本年3月に実施したテレビの所有状況や放送のネット配信へのニーズに関する調査の結果をご紹介します。これは、2021年12月(この連載を開始する前)から5回にわたってご紹介した「放送のインターネット同時配信利用のニーズを探る」と「なぜテレビを持たないのか?part2~『データが語る放送のはなし』④」でご紹介した調査の2023年版の結果になります。

まずは調査の概要から

民放連研究所では、2023年3月下旬に、日本全国を対象として、テレビの所有状況や放送の同時配信利用意向、放送事業者によるVODサービス、SVODやその他動画配信の利用実態などに関するインターネット調査を実施しました。同様の内容の調査は2020年から4回目になります。
なお、この調査は①調査対象者は回答精度の問題から69歳までに限定される、②インターネット調査はスマホで回答するため回答者に占めるネットのヘビーユーザーの比率が大きくなる、③(回答報酬があるなどの)ネット調査の仕組みに起因するバイアスは避けられない、などの特性があるため、日本人全体の平均的な意識、メディア利用行動とは乖離がある可能性があることに注意してください。

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テレビの普及率低下に歯止め?

まずは、回答者の基本的なテレビ視聴環境を確認しておきます。図表1に回答者のテレビ所有率、ネット接続率、有料放送契約率、SVOD契約率(全て世帯単位)について、第1回調査からの4回分を示しました。

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<図表1.調査回答者の基本的なテレビ視聴環境>

テレビ所有率(1世帯に1台でも所有。チューナーの有無は問わない。ワンセグ、車載、PC、ゲーム機は含まず)は85.9%と前年(85.5%)よりもわずかに上昇し、減少傾向に歯止めがかかったようにも見えますが、この程度では実質的には横ばいと言えます。有料放送契約率は緩やかな減少傾向を継続、テレビのネット接続率とSVOD契約率は、増加基調を維持しています。

「消費動向調査」(内閣府)によれば、2023年3月時点の全世帯ベースの「カラーテレビ普及率」("テレビ"の定義は本調査とほぼ同じ)は92.5%と、2022年3月の92.9%からは微減ですが、これも前年とほぼ同程度の水準と言ってよいと思います。ただ、民放連研究所の調査(以下、本調査)よりは7%程度高い水準ですね。

他方で、テレビのネット接続率は、爆発的にではありませんが、堅調に伸びています。これはテレビの買い替えに伴うものと考えられます。SVODの世帯契約率(世帯で1つでも契約しており、回答者自身が視聴可能な環境にある)は、ついに50%を超えました。先にご紹介した英国では、2022年春時点のSVODの世帯契約率は約67%(Ofcomデータより)でしたから、その水準にはまだまだ達していませんが、昨年、伸びがかなり鈍化して、そろそろ限界か?と思われたところから、若干再加速した感はあります。

若年男性単身者は6割程度しかテレビを持っていない

ところで、本調査では、世帯単位のテレビの所有率には、回答者の居住地域、未・既婚、性・年齢、子どもの有無による差はほとんどありませんでした。世帯年収については、400万円未満の世帯で所有率がほんの少しだけ低い傾向はありましたが、大きな違いではありません。しかし、性・年齢×単身/2人以上世帯では明らかな違いがあります。男性若年層(10代、20代、30代)の単身世帯では、テレビの所有率はどの年代も60%程度しかありません。女性でも、単身者のテレビ所有率は2人以上世帯より低い傾向がありますが、それでも70~80%程度は所有しています。やはり、若年男性の"テレビ受像機離れ"は、他の性年齢層に比べ、かなり進行しているようです。

ちなみに前出の「消費動向調査」(2023年3月調査)では、20代男性単身世帯のテレビ普及率は71.9%でしたので、本調査結果とは小さくない乖離があります。「消費動向調査」は無作為抽出による世帯単位の調査(調査票を郵送し、郵送またはオンラインで回答)ですが、学生や外国人などの世帯を対象から除外していること、同一世帯15カ月間連続の毎月調査であること、国が行う調査であること、などから公務員など堅い職業の回答者が多くなるバイアスがかかっているといわれています。一方、ネット調査は自分でモニター登録した人を対象とする調査ですが、回答したい調査を選んでスマホで手軽に回答できる上に、(1件当たりでは些少ながらも)報酬がもらえるため、性年齢だけで割り付けると、学生、無職、アルバイト等の回答者が多くなる傾向はあります。また、繰り返しですが、ネットのヘビーユーザーが多いバイアスからは逃れられません。

真実は両者の調査結果の中間くらいにあるのでしょうか? だとすれば、テレビの本当の世帯所有率は90%を少し欠ける程度で、若年男性単身世帯の所有率に限定すれば65%程度なのかもしれません。ちゃんとした根拠はありませんが......。

Amazon Prime Video、Netflix、ディズニープラスはさらに増加

次に、SVODのサービス別契約率を図表2に示しました。上位5サービスの契約率が増加した一方で、下位の3サービスはわずかながら減少しています。日本では相変わらずAmazon Prime Videoは強いですね。日本オリジナルのコンテンツやリアルタイム配信にも力を入れている効果があるのかもしれません。昨年より5.4ポイント増加しました。廉価な広告付きプランを導入したNetflixも昨年より2.2ポイント増と健闘しています。昨年は減少したHuluですが、今年は再び増加しました。U-NEXTは漸増傾向を維持、ディズニープラスはついにU-NEXTにほぼ並びましたが、世界規模での大幅な契約者増に比べれば、日本での増加ペースはかなり控えめです。DAZNが減少したのは、ハッキリとはしませんが、料金値上げの影響かもしれません。

昨年、この設問の調査結果をご紹介した際に、(大手SVODの普及拡大は)"そろそろ頭打ちになる可能性も考えられます"としましたが、日本ではまだ伸びていますね。ただし、契約率で下位のサービスはやや減少に転じていることがうかがわれ、SVODマーケット全体の成長率鈍化が鮮明になる中、視聴者による選別が進んでいる感があります。Amazon、Netflix、Disneyの世界3強と共存できるサービスはどこなのでしょうか?

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<図表2.SVODサービス別契約率>

テレビを持たない理由とは?

さて、この調査では、現在テレビを持っていない人(自宅にテレビがない人を指します。ワンセグやカーナビ、ゲーム機に付属した機能、職場、学校等での視聴を除きます)に対して、2021年調査から全く同じ聞き方で、テレビを持たない理由を聞いていますが、今回、「YouTubeがあればテレビはいらないから」という、みなさん興味がありそうな(?)選択肢を新規で追加してみました。なお、数を制限しない複数回答ですので、他の選択肢の回答率への影響はほとんどないと思います。その結果を図表3に示します。

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<図表3.(放送を見られる)テレビを持たない理由(複数回答、回答者数に対する構成比:%)>

図の見やすさを考慮して、2022年と2023年のデータのみ提示しました。やはりと言うか、最も多く選ばれたのは「YouTubeがあればテレビはいらないから」(26.6%)でした。性・年齢別では、これもやはりと言うか、10代、20代、30代の男性の回答率が他の性・年齢よりも明らかに高くなっています。続いて多いのは、「放送を視聴できるテレビを設置すると、NHKの受信料を払わなくてはいけなくなるから」です。昨年から微増ないしほぼ同水準の24.0%の回答者が選んでいます。こちらは50代以下の男性で回答率が高い特徴があります。続いて、「以前はテレビを見る習慣があったが、現在、その習慣はなくなったから」が、昨年とほぼ同じ18.5%です。

上位の選択肢の回答率は、かなり安定しています。やや変化があったのは、「テレビ放送は好きな時間に好きな番組だけみられないので不便だから」との選択肢の回答率がやや減少していることです(8.7%→5.5%)。これはTVerの利用拡大により、テレビ番組でもオンデマンドで好きな時間にみられるという感覚が、広がりつつあることによるものかもしれませんが、詳しく掘り下げてみる必要がありそうです。もうひとつやや変化があった可能性があるのは、「テレビを購入するお金がないから」(12.3%→14.3%)ですが、この選択肢は20代男性で最も多く選ばれ(25.3%)、同じく20代の女性で全性別・年齢で最も選ばれない(7.2%)という特徴があります。テレビという財(というかサービス)に感じる効用が、同じ年代の男女で大きく異なっている可能性がうかがわれます。これは興味深いですね。

テレビはデジタルメディアとの関係で選ばれるメディアに

「YouTubeがあればテレビはいらない」という理由が、現実にどの程度、テレビの普及率低下に寄与しているのか、あるいは、そう思っているだけで実際にはあまり寄与してはいないのかは、この簡単な調査だけではわかりません。しかし視聴時間の面では、ネットに結線されたスマートテレビであるコネクテッドテレビでは、SVODやAVODと共にYouTubeがかなり視聴されており、それがテレビ放送の視聴時間減少につながっている可能性は否定できません。

当然ですが、TVerなど放送番組のAVODに投じられる広告費は放送事業者自身のものになります。SVODは一部広告付きのサービスもありますが、基本的に有料ベースの広告なしですから、視聴時間面では全ての放送と競合しますが、財源面では無料の広告放送とは競合していません。ほぼ100%広告付きのYouTubeは、個々の視聴は極めて細分化されていますが、全体として見れば時間と財源の両方で無料の民放と競合しています。

「テレビ広告とYouTube動画広告のプランニングは一体化している」とする広告主は55%で、大手の広告主に限定すれば79%になるとの調査結果もあります(日経広告研究所「広告主動態調査」2022年版より)。プランニングが一体化しているのなら、かつてのようにテレビは広告費でデジタルはもっぱら販促費なので、両者はあまり競合しないという状況ではなくなっている可能性があります。

(もちろん、全てではありませんが)多くの広告主にとって、テレビはもはや、それだけで広告キャンペーンを完結させる媒体ではありません。テレビではリーチするのが難しい、あるいはリーチできないターゲットをデジタル媒体で補完することで、あるいは、テレビが相対的に弱い検討のプロセスを、そのプロセスに最大の強みがあるデジタル媒体で補強することで、多くの大手広告主の広告キャンペーンが成立しています。もちろん、そのデジタル媒体にはYouTubeだけでなく、さまざまな媒体が含まれるのですが、コネクテッドテレビの普及が進展すればするほど、テレビはデジタルメディアという競合との関係を、編成面でも営業面でもこれまで以上に意識する必要性が増すことは明らかです。

と、最後はまたまた脱線気味になってしまいましたが、今回はここまでで、次回は民放のネット配信へのニーズを中心に調査結果をご紹介します。

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