ローカル局の同時配信へのニーズはキー局以上にある可能性も~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果④

木村 幹夫
ローカル局の同時配信へのニーズはキー局以上にある可能性も~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果④

第1回第2回第3回に続く論考です。


在京キー局の多くは、2022年春ごろより、プライムタイム限定で全国を対象としたネット同時配信を開始する予定とされている。言うまでもなく、プライムタイムの番組のほとんどはキー局から送られるネットワーク番組であり、全国で同じ時間にほぼ同じ番組が放送されている。従って、ローカル地区でキー局の同時配信を視聴する視聴者は、自分の居住エリアでは見ることができない番組を見るためではなく、デジタルデバイスやスマートテレビ、コネクティドテレビなど付加価値をつけられたテレビ受像機でテレビ放送を見ることが目的である。そうした需要がどの程度あると考えられるかについては、これまで見てきたとおりである。ネットでテレビ番組を見る習慣(あるいは経験)がある視聴者のうちの一部が、自宅内のテレビがない部屋などでテレビ放送をみるために視聴する、あるいはリビング等のメインのテレビで見逃し視聴、オンデマンド視聴などと合わせて視聴することが考えられる(現時点ではスマートテレビやコネクテッドテレビデバイスに対応した同時配信視聴用アプリの導入予定は明確ではないが、将来的には導入されることを想定している。また、デジタルデバイスとテレビを結線したミラーリングでの視聴も無視はできないと考えている)。

こうした視聴の量を定量的に予測するのはかなり困難だが、これまでの調査結果や英国などでの同時配信の視聴状況、見逃し配信の利用率などから、ごく大雑把に想像すると、開始数年後時点における同時配信視聴の経験率は、多く見積もっても見逃し配信並みの30~40%程度。日常的にある程度の時間以上利用する恒常的な行為者率は、これも多く見積もってその2割程度の6~8%程度。その場合の視聴時間については、同時配信の視聴者は年齢層が比較的若いこともあって平均的なテレビ視聴者よりは視聴時間が少ないと考えられることに加え、デジタルデバイスでの視聴の場合、(同時配信以外の)ネット利用との同時利用が制限されるため、放送と同時配信を合わせたリアルタイムテレビ視聴時間に占める同時配信視聴の割合は5%未満ではないかと推測することができる。この程度の視聴シフトなら、ローカル局のプライムタイムのスポット営業に与える影響はかなり限定されると考えているが、もちろん、この試算についてはより精緻な調査、分析を行う必要がある。

視聴者は同時配信で
キー局とローカル局どちらを選ぶのか?


ところで、これまで紹介してきた視聴者調査には、ローカル地区(関東1都6県以外)の視聴者が、地元局の同時配信とキー局の同時配信のどちらを見たいと考えているのか?についての以下のような設問を盛り込んでいる。

[問] あなたは、あなたがお住まいの地域のローカル放送局のテレビ放送と東京キー局が関東で放送しているテレビ放送の両方がインターネット上で、どちらも無料で放送と同時にそのまま配信されるとした場合、どのように視聴したいと思いますか。
(なお、ドラマや人気のあるバラエティ、全国ニュース、ワイドショー、全国的あるいは国際的なスポーツ中継などは全国でほぼ同じ番組がほぼ同じ時間帯に放送されています。)

ほぼ全時間帯での常時同時配信を、キー局だけではなく、ローカル局もエリアを制限せず、全国に向けて行うことを想定している。現実には存在せず、また将来においても実現するかどうかわからないサービスだが、キー局の"放送"と地元ローカル局の"放送"の両方が存在する状況でどちらを選ぶかを聞いた仮想実験的な設問である。

同設問の2020年と2021年の2回分の調査結果を図表12に示した。関東1都6県以外に居住する回答者だけに聞いている。結果は2020年、21年ともにキー局とローカル局の回答は、"どちらともいえない"を挟んで真っ二つに分かれている。ただ、大きな差ではないものの2021年調査の方がややローカル局を選ぶ回答が多い。事前の予想では、多少なりともキー局に偏るのではないかと考えていたため、ほぼイーブンないしローカルの方が若干多いとの結果はやや意外であった。

図表12.jpg

<図表12.キー局とローカル局別の同時配信利用意向>

性年齢、居住地域、テレビ視聴時間量などとのクロス集計も行ったが、2回の調査とも、男女ともに10代でキー局の方を見たいとの回答者が若干多い傾向はあったが、それ以外の性年齢層に目立つ違いはない。居住地域では、関東以外の地域を7つに分けて集計したが、2回とも地域差はなかった。テレビ放送視聴時間量との関係では、2回とも全くテレビ放送を見ない層で"どちらも視聴したくない"が多いのは当然として、それ以外の層ではキー局とローカル局のどちらを選ぶかについて違いらしい違いはなかった。

図表1314は、2021年の調査でキー局とローカル局の("やや"を含む)どちらかを選んだ回答者に対して、その理由を聞いたものである。ローカル局を選んだ理由としては、"ローカルニュース・情報を知りたい"が際立って多い。"普段から見ているので習慣として"、"地元局でしか放送されていない番組を見たいから"、"地元のローカル局に親しみや愛着があるから"がそれに続く。ローカル情報へのニーズと普段の視聴習慣およびそこから来るローカル局への親しみが理由と言える。理由としては納得できるものであろう。

一方、キー局を選ぶ理由は、"関東だけの番組、自分の地区では放送されていない番組を見たい"が際立って多く、"自分の地区では遅れて放送される番組を見たい"が続く。これらは実利的で納得できる理由だが、"地元のローカル局より東京の局の方がなんとなくイメージが良い"とのあいまいなイメージを重視する理由も20%近くの回答者が選んでいる。

図表13.jpg

<図表13. なぜローカル局の同時配信を視聴したいのか>

図表14.jpg

<図表14. なぜキー局の同時配信を視聴したいのか>

ローカル情報番組の視聴と
ローカル局の選択に密接な関係

キー局とローカル局の同時配信のどちらを選ぶかの設問でローカル局を選ぶ要因は、①ローカルニュース・情報を得るため、②普段からローカル局を見る習慣とローカル局への愛着、であることが伺われる。ほぼ毎日のように放送されているローカルニュースや情報を伝える番組と関係がありそうである。そこでこの設問と、別途聞いてたローカル情報番組の視聴頻度に関する設問のクロス集計を行ってみた。関東1都6県以外に在住する回答者に、まず「地元のテレビ局が制作し、お住いの地域だけで放送されている情報系の番組があることを知っていますか」と聞き、"知っている"との回答者に対して、「みたことがありますか」と聞き、‟見たことがある"との回答者にその視聴頻度を聞いている。ちなみに、"知っている"は対象者の58.7%、"見たことがある"はそのうちの90.3%であった。

結果を図表15に示す。ローカル情報番組の視聴頻度が高くなればなるほど、ローカル局を選ぶ回答者が多くなる傾向が、かなりきれいに出ている。ローカル情報番組をよく見る人ほど、ローカル局とキー局の同時配信が並立して行われているという仮想的な状況下でローカル局の配信を選ぶ傾向が強くなるとの結果であった。

図表15.jpg

<図表15. ローカル情報番組の視聴頻度と同時配信視聴意向>


この設問が想定したような状況が実現するのかどうかはわからない。ただ、このように極端な状況であっても、ローカル地区におけるローカル局の放送へのニーズはキー局と同等かそれ以上に存在していることを調査結果は示唆している。そしてそのニーズは、ローカル番組によるローカル情報の継続的かつ高頻度の提供と、それによるローカル番組の日常的な視聴習慣形成によってもたらされている可能性が高い。常日頃のローカル局の地域での活動の中長期的な積み重ねが、視聴者にローカル局の配信を選んでもらう大きな要因になると考えることができるだろう。
 
さて、これまではもっぱら民放が行う同時配信についての調査結果を見てきたが、最終回となる次回では、NHKプラスに関する設問からNHKが行う同時配信へのニーズを探ってみたい。

最新記事