ディズニーがHuluの単独株主に 配信サービスも合体版アプリを公開 コンテンツ総数でNetflix上回る

編集広報部

米ディズニーが12月1日、かねてからの予定どおり86億1,000万㌦(約1兆2,900億円)を支払いコムキャストが保有するHulu株を買収した。今後はHulu株の評価プロセスを経て、追加の支払いが生じるか、この金額で買収が完結するかが決まる。折しもコムキャストは、投資家への報告で傘下のNBCUが2023年に配信事業で出す損失を総額28億㌦としており、今回のHulu株売却で得た利益はその補填に充てられるとみられている。

Huluはそもそも、コムキャスト傘下のNBCUと21世紀FOX、ディズニーの3社が07年に自社番組の配信目的で創設したジョイントベンチャーで、Netflixと並ぶ配信サービスのパイオニアだ。ディズニーがFOXの娯楽資産をごっそり買収した19年、FOX所有のHulu株も吸収することとなり、ディズニーは持ち株比率66%の大株主となった。残りの33%はコムキャストが所有していたが、FOXの資産を買収した19年に「24年1月以降、ディズニーがコムキャストからHulu株を買収する権利を有する」ことで両社が合意していた。以来、「売る・売らない」「買う・買わない」と2社間が牽制し合い、業界が注目するなか、"Huluの行方論争"は今年に入って激化。売買交渉の開始予定時期だった24年1月が今年9月に早められたことで、早期の決着へと動いた。

新たな配信サービスが次々に登場している昨今、実際に利益を出すのは至難の業で、ほとんどが赤字に苦しんでいる。こうしたなか、HuluはNetflixと並んで事業を黒字化することに成功している数少ないサービス。米国内でのライブテレビ配信「Hulu + Live TV」の急成長もあり、直近の四半期で新規契約者20万人を獲得し、契約者総数は約4,850万人となっている。Disney+も米国とカナダで新たに50万人が契約し、約4,650万人となった。

★Huluコンテンツをベータ版でDisney+に追加
Huluの買収に続いてDisneyは、米国内のDisney+とHuluのバンドル契約者向けに12月6日、新たな合体版アプリの提供を開始した。ボブ・アイガーCEOが23年初頭に打ち出したように、2つの配信アプリを統合するための第一段階で、24年3月にはさらに本格的な合体版アプリが公開されることになっている。

今回はとりあえずの応急処置的なものであり、HuluのコンテンツをシンプルにDisney+のアプリに追加した。Disney+とHuluのバンドル契約者がDisney+のアプリを開くと、「Hulu(ベータ版=試験的なサンプル版と明記)」のアイコンが「Marvel」「Star Wars」「Pixar」「National Geographic」「Disney」と並んで表示される。現段階ではDisney+とHulu間の連携はとられておらず、例えばHuluで、あるコンテンツのシーズン1を第3話まで見てから同じコンテンツをDisney+で見ても、Disney+はHuluでの視聴履歴を全く認識しないという。こうしたアプリ間の連携も、24年の本格版アプリでは修正されるとみられている。

★コンテンツ数でNetflixをしのぐ
メジャー配信サービス2つの統合でDisney+/Huluは全米でのコンテンツ総数と人気コンテンツ数の両方でNetflixをしのぐと、英国の調査会社アンペア・アナリシスが報告している。それによると、Disney+/Huluのコンテンツ総数は9,578本(うちHuluが7,250本)でNetflixを1,000本以上上回るという。また、今年第3四半期の「人気コンテンツ上位100タイトル」のうち、Disney+(17タイトル)とHulu(16タイトル)で3分の1を占めた。合計33タイトルでNetflixの29を上回っている。Maxが18で、Amazon Prime Videoが11と続いた。

★リニア離れのディズニー?
ディズニーは23年夏あたりからリニア離れの事業方針を打ち出し、配信事業へとシフトしている。ABCほかリニア部門の売却もほのめかしており 、これまでにアレン・メディアやネクスターが売却先としてあがり交渉も進められたが、今のところまだ可能性の域を出ていない。しかし、Hulu買収で配信事業に拍車がかかれば、今後現実化することも考えられる。人気のケーブルチャンネルESPNは維持する方向だが、これもESPN+に重心をシフトするといわれている。

★業界の反応
今回のディズニーによるHulu株買収は、リニアvs.配信の対立構造の複雑化をいよいよ加速していくとみられ、双方で百家争鳴の様相を呈している。

ABC、CBS、FOX、NBCのローカル局経営者らで構成する「米ローカルニュース連合体(Coalition for Local News)」 はYouTube TV、Fubo TV、Hulu + Live TVなどの配信によるテレビチャンネルのバンドルサービス(vMVPD)をケーブルテレビ(MVPD)と同様とみなし、政府規制の対象とすべきと米連邦通信委員会(FCC)に働きかけており、今回の買収発表を機にさらにボリュームを上げてきた。その声明文で「ディズニーのHulu買収により、今後ライブテレビ配信がケーブル・衛星テレビの市場を急激に侵食し、同時に一握りの大手企業がライブテレビ配信業界を牛耳ることにもつながる」と業界の生態系崩壊への危機感を訴えている。この件で23年9月に行われた初のFCC公聴会ではNAB(全米放送事業者連盟)のカーティス・ルジェット会長も連合体の主張を支持するとの態度を表明した。FCCはこれに対し、まずは議会が動かないことにはFCCとしては何もできないとの姿勢を示している。

一方、配信業界の団体「Preserve Viewer Choice Coalition(視聴者の選択権を擁護するための連合体)」は、FCCがvMVPDをケーブルテレビ(MVPD)とみなす動きに対抗するために結成されたもの。11月に入り、同連合体はHuluとYouTube TVの新規加盟を発表している。団体の主張は、FCCがvMVPDを規制対象にすることは視聴料の値上げにつながり、視聴者の選択肢を奪うことになるというもの。

さらには、ディズニーがこの秋チャーター・スペクトラムとの再送信権料契約でリニアと配信のハイブリッド契約に漕ぎ着け、パラマウントが12月にケーブルチャンネルShowtimeをParamount+ with Showtimeにリブランドするなど、リニアと配信の垣根も曖昧になりつつある。

ここ数年、急速にリニアと配信の混沌時代に突入した米メディア業界で、ディズニーという最大手の動きは業界全体の方向性をも左右しかねない。業界だけでなく、世界が注目しているといっていい。

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