第75回芸術選奨 民放から村瀬史憲氏と上田大輔氏が受賞

編集広報部
第75回芸術選奨 民放から村瀬史憲氏と上田大輔氏が受賞

芸術分野で優れた業績をあげた個人を顕彰する文化庁主催の第75回芸術選奨が3月3日に発表され、3月11日に東京都内で贈呈式が開かれた。放送部門で民放から村瀬史憲氏(名古屋テレビ放送・報道情報局報道センター)が文部科学大臣賞、上田大輔氏(関西テレビ放送・報道局報道センター)が文部科学大臣新人賞をそれぞれ受賞した(冒頭画像の左から村瀬氏、上田氏)。

村瀬氏は2024年「地方の時代」映像祭でグランプリを受賞した『掌で空は隠せない~1926木本事件~』などのドキュメンタリー番組の成果が認められた。同番組は、およそ100年前に発生した朝鮮人労働者の虐殺事件を検証。「事件を振り返ると同時に、現代での和解への希望を描いた」ことが受賞の理由。また、同氏の取材チームが1本の番組を発火点にさまざまな取材を枝分かれさせ、いくつもの番組に結実させていることも高く評価された。

弁護士からテレビ報道の世界に転身した上田氏は2024年民放連賞テレビ報道番組で優秀となった『引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群』や近作の『さまよう信念 情報源は見殺しにされた』などのドキュメンタリーが「テーマ性、クオリティともに高く、時代から忘れられそうな事実に弁護士であるディレクターならではの視点で切り込んだ」ことが称えらた。

村瀬氏は民放onlineの取材に「身の引き締まる思い。テレビ報道がやらなければならないことの大切な部分は、実はドキュメンタリーが負っている。ひとつひとつのテーマを納得いくまで取材し、そこから見えてきた問題を視聴者に示していくことこそ、テレビ報道の王道だと思う。これからもそれを追求していきたい」と話してくれた。これから取り組みたいテーマは「とにかく、中国。日本と中国の関係を考える材料はまだまだ少ない。同国の素顔をしっかりとこの目で取材したい」と意欲を示した。

上田氏は「身に余る光栄で、励みになります」と喜びを隠せない一方、「いまテレビ報道に厳しい目が向けられている。いわれなき批判もあるが、これまでの取材や報道のあり方が問われているのは事実」。受賞の対象となった作品でも、表現の自由や取材源の秘匿などの問題に正面から切り込んだ。「自分自身も含めてそれらと向き合い、新しい取材や報道のあり方を模索しながらこれからも取り組んでいきたい」と話してくれた。

放送部門ではこのほか俳優の阿部サダヲ氏が『不適切にもほどがある!』(TBSテレビ)の演技で文部科学大臣賞、大島隆之氏(NHKエンタープライズ・ディレクター)が『"一億特攻"への道~隊員4000人 生と死の記録~』で同新人賞を受賞した。

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<放送部門贈呈の壇上・左からあべ俊子文部科学大臣、阿部氏、村瀬氏、上田氏、大島氏>

芸術選奨は、文化庁が1950年から毎年度、演劇、映画、音楽、舞踏、文学、美術(2部門)、メディア芸術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論の12部門から優れた業績や新生面を開いた個人を対象に、芸術選奨文部科学大臣賞(70歳未満)、同新人賞(50歳未満)を贈ることで芸術活動の奨励と振興に資するもの。民放から近年は山﨑裕侍(北海道放送)、佐野亜由美(関西テレビ放送)、磯山晶(TBSテレビ)、伊東英朗(南海放送)、岡野真紀子(WOWOW)、佐々木聰(山口放送)の各氏が大臣賞、同新人賞を受賞している(所属は受賞当時)。

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【注記】
文部科学大臣賞を受賞した村瀬史憲氏には民放onlineに以下の記事へご登場・ご寄稿いただきました。ぜひご一読ください。

放送文化基金の「全国制作者フォーラム2025」開く 第一線のクリエイターが創作のモチベーションも披露(2025年3月15日掲載)

「地方の時代」映像祭2024グランプリ 名古屋テレビ放送『掌で空は隠せない~1926木本事件~』 加害の歴史に向き合う機運を(2025年1月6日掲載)

吉岡忍さん×村瀬史憲さん 戦争と国家と報道を考える【戦争と向き合う】④(2024年4月4日掲載)

名古屋テレビ コロナ禍のミニシアターをドキュメンタリー映画に 『シネマスコーレを解剖する。~コロナなんかぶっ飛ばせ~』(2022年7月8日掲載)

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