米NFLのメディア資産をESPNが取得 株式10%と引き換えに ESPNはドル箱スポーツの中継権を拡充

編集広報部
米NFLのメディア資産をESPNが取得 株式10%と引き換えに ESPNはドル箱スポーツの中継権を拡充

米NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)とDisney傘下のスポーツ専門ケーブルチャンネル「ESPN」は8月5日、ESPNがNFL傘下の「NFL Network」や「NFL RedZone」などメディア資産を取得する代わりに、NFLがESPNの株式10%(推定30億ドル規模=約4,400億円)を取得することで合意した。ESPNは米国内で圧倒的人気を誇るNFLの中継権をこれまで以上に拡充し、NFLも放送・配信市場における影響力を一段と強めることになる。両社は今後、NFLのオーナー会議と規制当局による承認を経て正式に契約を成立させる。

今回の契約でESPNは「NFL Network」と「NFL RedZone」のメディア権とブランド権を取得。NFLの一部コンテンツや知的財産(IP)もESPNにライセンス供与する。また、NFLの公式ファンタジーフットボール* のゲームサービス「NFL Fantasy」の権利もESPNに移管する。「NFL Network」(2003年開局)と「NFL RedZone」(2009年開局)はいずれもケーブル/衛星テレビの契約世帯向け有料ケーブルチャンネル。「NFL Network」はプレシーズンの全試合を中継するほか、NFLのニュースや特集番組をはじめ毎シーズン7試合を独占中継しており、契約世帯は約5,000万。「NFL RedZone」は、シーズン中の日曜午後に行われる全試合を対象に、得点圏(レッドゾーン)内でのビッグプレーをノンストップで中継している。契約世帯数は1,000万未満だ。

🏈背景に圧倒的な視聴需要🏈

NFLの存在感は米国の放送市場で圧倒的だ。2023年の全米テレビ番組(リニア)視聴者数ランキング上位100番組のうち93番組がNFL中継。2024年はやや減ったものの72番組がランクインしている(ニールセン調べ)。年に一度の祭典「NFLスーパーボウル」は例年、1億人を超える視聴者を集め、2025年2月の第59回大会は平均視聴者数1億2,770万人と、米国の放送史上最多の視聴者数となった(既報)。30秒CMの単価も700万㌦(約10億2,000万円)を超え、放送局に莫大な広告収入をもたらす。

その前提となるのが、NFLと地上波・ケーブル局との長期にわたるメディア権契約だ。ESPN/ABCは年間約27億㌦(約3,970億円/2022~2033年)、CBS、FOX、NBCはそれぞれ年間20億㌦以上を支払っている(いずれも2033年までの契約)。配信プラットフォームもAmazonが木曜夜の中継枠を年間約10億㌦(2033年まで)、Netflixはクリスマスゲームを年間約1.5億㌦(2024〜2026年)の規模で契約しており、これらの総額は2022年からの11年間で約1,100億㌦(約16兆1,700億円)に上るといわれる。

🏈配信時代への戦略転換🏈

このようにNFLは「リーチの最大化」を目標に、リニアテレビの視聴者と配信利用者の双方に確固たる視聴機会を提供してきた。Amazon Prime VideoやNetflixで配信する試合は出場チームの地元市場では必ず地上波局で放送している。一方、配信時代を見据えてプラットフォームごとの特性を活かし、分散戦略も進めている。木曜夜の試合はAmazon、クリスマスはNetflix、そして今季は9月5日にブラジルのサンパウロで行われた金曜夜の試合をYouTubeとYouTube TVを通じて全世界独占の無料配信を実施するなど、新興プラットフォームを巧みに取り込んでいる。

今回の契約成立後もNFLは引き続き配信サービス「NFL+」(スマホ・タブレット限定での試合の生配信やNFL NetworkとNFL RedZoneの有料配信など)、公式ウェブサイトの「NFL.com」、リーグ全32チームの公式ウェブサイト、NFLポッドキャストネットワーク、NFL FASTチャンネルを所有・運営する。

米国では8月21日にESPNとFOXがユーザーと直接契約する新たな配信サービス(DTC)を開始した(既報)。ESPNが放送するNFLの全試合が有料のケーブル契約なしに配信で視聴できるのは初めて。ただし、ユーザーにとって必ずしも割安とはならない。ESPNとFOX Oneのバンドルだけで月額39.99㌦。さらにNetflix、Amazon Prime Video、ピーコック、Paramount+が配信するNFLの試合を見たければ、追加契約が必要になる。

今回の協業はスポーツリーグが持つメディア資産と中継権を包括的に再編する取り組みとして注目される。しかし、NFLがESPNの株主となることで特定のメディア企業が優遇されるのではないかとの懸念の声もある。これに対し、NFLのロジャー・グッデル コミッショナーは「他のメディアパートナーとの関係も引き続き発展させる」と強調、Disneyのボブ・アイガーCEOも「ジャーナリズムの独立性は損なわれない」と断言している。


* ファンタジーフットボールとは現実のNFL選手をユーザーがドラフトして仮想チームを作り、各選手のシーズン中の実際の試合成績(獲得ヤード、タッチダウン、フィールドゴールなど)を反映させ、他ユーザーのチームと競うゲーム。「NFL Fantasy」はその公式版。この所有権がESPNに移管されると、ESPNの既存ファンタジーフットボール事業と統合される予定だ。これによってESPNは世界最大規模のファンタジースポーツ基盤を手中に収めることとなり、ユーザー数の大幅な拡大が見込まれる。

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