米NABショー2025に5万5,000人が参加  FCCのゴメス委員は講演で政権の現状を憂う

編集広報部
米NABショー2025に5万5,000人が参加  FCCのゴメス委員は講演で政権の現状を憂う

全米放送事業者連盟(NAB)が主催する「NABショー」が今年も4月5〜9日、ラスベガスで開かれた。NABによると160カ国から5万5,000人の参加登録があり、このうち4人に1人(26%)が海外からの参加だという。初めて同ショーに参加する人も急増し、半分以上(53%)と発表された(冒頭画像はNABの公式サイトから)。

とはいえ、参加登録者数は前年から6,000人減り、過去最高だった2019年の9万2,000人から大きく減少した。新政権による関税政策や米国内メディアへの抑圧が進むなかでの開催だけに、「トランプの暗雲がNABショー全体を覆った。来場者は関税問題の話題で持ちきりだった」――とも報じられた(メディアニュースサイト「ibc.org」4月10日付)。オープニングで基調講演を行ったESPNのスポーツキャスター、スティーブン・A・スミス氏は政治的な二極化や分断を反映した米メディアの報道や、私利私欲に走るワシントンD.C.の政治家を厳しく批判するなど、これまでとかなり異なる雰囲気だったようだ。

それでも、サッカー場8面分の大会場に1,100社・団体がブースを出展。このうち125社・団体が初参加だった。アドビ、AT&T、キヤノン、Dell、富士フイルム、インテル、マイクロソフト、ニコン、ソニー、ベライゾンなどのグローバルブランドが一堂に集まり、メディアとエンターテインメント業界の専門家向けに新技術や未来構想を展示した。今年のトレンドトピックは、猛スピードで開発・導入が進むAI、クリエーターエコノミー、スポーツテクノロジーだったと米メディアは報じている。

展示ブースに加え、メディア業界、業界団体、行政機関のリーダーら1,000人以上による550以上の講演やセッションも開かれた。主催するNABのカーティス・ルジェット会長は4月8日に講演し、今期のNABの重要施策や連邦議会における業界関係の法案審議の動向を報告。メディア所有規制の見直しを求めるキャンペーンを始めたことを筆頭に、▶AMラジオの全車搭載法案▶次世代テレビ規格(ATSC3.0)の実用化▶ローカルニュースの擁護▶ラジオ局への追加課税の抑止――などを最優先に、引き続き行政に働きかけると約束した。

連邦通信委員会(FCC)のアナ・ゴメス委員(民主党)も7日に講演し、新委員長となったブレンダン・カー氏が進めるFCCの現状を厳しく批判した。ちなみに、FCCからはNABショーへの旅費・滞在費の支出が禁じられたため、ゴメス氏は自費で参加したという。新政権とカー委員長によるDEI(Ⅾiversity, Equity and Inclusion=多様性や公平性を尊重し、誰もが受け入れられる包括的な組織や社会を実現しようとする取り組み)プログラム廃止命令についてゴメス氏は「そもそもFCCにはDEIを取り締まる権限などない」と断言。新政権によるPBSやボイス・オブ・アメリカなどの公共放送局の廃止政策にも懸念を表明。「これらの公共放送局が法令に違反した証拠はなく、政府の経費削減の大義名分の下に助成金をカットしたいだけだ」と話した。いくつかの政府機関をホワイトハウス直下に置くとの大統領令には「FCCや連邦取引委員会(FTC)は政治的な思惑ではなく、公共の利益を考えた専門的な判断で行動すべきだ」と強く訴えた。また、FCCのジェフリー・スタークス委員(民主党)が退任を表明していることについては、「唯一の民主党委員になることは心配していない。このままのFCCを続けさせるわけにはいかない。これからも警鐘を鳴らすべく声を上げていく」と話した。

来年のNABショー2026は4月18〜22日にラスベガスで開催される。


【編集広報部からお知らせ】 「民放online」はNABショー2025の現地リポートを長井展光さんに近く寄稿いただく予定です。

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