米次世代放送規格ATSC3.0 移行の加速化めぐって業界間で対立深まる FCCの判断が焦点に

編集広報部
米次世代放送規格ATSC3.0 移行の加速化めぐって業界間で対立深まる FCCの判断が焦点に

米国で次世代放送規格ATSC 3.0(愛称「NextGen TV」)の普及加速化をめぐって放送業界と機器メーカーなどの対立が深まっている。7月にはNAB(全米放送事業者連盟)やATSC3.0を推進する地上波放送局の連合体「パールTV」が連邦通信委員会(FCC)に旧規格ATSC 1.0の終了時期を明確にすることと、ATSC3.0対応チューナーのテレビ搭載義務化を強く要請。一方、機器メーカーの業界団体などは市場原理に委ねている現行の導入方法の維持を訴え、政府の規制に基づく強制的な措置に反対している。

ATSC 3.0は高精細映像、マルチチャンネル音声、インターネットとの融合による双方向機能、災害時の高度な警報通知などを可能にする新たな地上波テレビ放送規格だ。2017年以降、テレビ局の自主的な努力に委ねる形で普及が進められ、現在は80以上の市場と総人口の76%で受信可能といわれる。

NABは今年2月、ATSC1.0を2030年までに全米で終了させるようFCCに提案。28年にまず上位55市場、続いて30年までに残る市場で廃止する2段階のスケジュールを示した(既報)。6月11日~13日にワシントンD.C.で開かれた推進派の会議「NextGen Broadcast Conference」にはネイザン・シミントン前FCC委員が出席し、「ATSC3.0の終了時期を確定するための制度的な手当てが直ちに必要」との立場を表明した。パールTV側も7月10日にFCCのメディア局などと面会し、あらためて機器メーカーにチューナー搭載義務を導入するよう要望した。

一方、同じ日に米国税制改革協会(Americans for Tax Reform)など保守系13団体が連名で反対の意見書を提出。「ATSC 3.0はすでに全米の4分の3以上の世帯で受信可能で、今後の普及も市場に委ねるべき」と、FCCが2017年に示した自主導入方針の堅持を求めた。全米民生技術協会(CTA)や全米インターネット・テレビ協会(NCTA)も「これ以上の政府の介入は不要」との立場を強調している。6月のFCC会合に出席したこれらの団体は「ATSC 3.0への強制的移行は消費者にコスト負担を強いるだけでなく、イノベーションを妨げる」と主張。ATSC 3.0チューナー搭載テレビと非搭載テレビの価格差が80㌦前後に上るとの独自試算も示し、政府の介入による義務化に反対した。

こうしたなか、FCCはATSC1.0の廃止や3.0の義務化に関して具体的な審議日程を明らかにしていない。放送業界が訴える制度整備の必要性と、市場競争を重視する反対論の間でどのような政策判断が下されるのか注目される。

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